Q1:効果のある治療法として大脳指向型(BOOT)咬合療法が紹介されているが、そのほかに治療法はありますか?
A1:線維筋痛症の代替治療について
a.漢方治療
b.鍼灸治療
c.呼吸法
d.徒手による治療
・筋膜療法/Fa-ther (Fascia-therapy)
・筋肉・トリガーポイントへのマッサージなど
・オステオパシー
e.サプリメント(記事を作成中)
(そのほか、記事を制作中)
*薬剤
*ノイロトロピン
*リリカ(一般名はプレガバリン)
当HPは、大勢おられる線維筋痛症患者のうち、非常に重症で、しかも、その状態のままで症状が固定し、固定したまま数年が経った患者さんでも、なおかつ希望の持てる治療法はないか、その類の治療法を探して紹介できないかと考えています。
管理人自身もそういった患者の一人でしたし、そういう状態になってしまった患者さんが置かれている過酷な状況は、想像を絶するものがあるからです。
したがって、HP上で詳しく紹介する治療法としては、およそ以下のようなことを考えています。
*非常に重症になって、その状態で固定してしまった患者さんのうちの6割以上が、介護なしに日常生活ができる。
また、一人で簡単な買い物や、図書館や映画館に行ける。
大脳指向型(BOOT)咬合療法の他にも、このラインをクリアできる治療法があれば、逐次紹介したいと考えています。
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しかし、全国で200万人いるといわれる患者さんのなかで、重症者はおそらく30%には満たないでしょう。患者さんの多くは、なんとか身動きはできるものの、常につきまとう身体の痛みや、辛い疲労感などに苦しんでいるという状況なのではないでしょうか。
この疾患を発症した患者さんのうち、非常に軽症の方は、いくつかの治療を受けているうちに、ほとんど痛みを感じられないほどよくなったという方もおられます。
また、なんとか痛みと付き合いながら、仕事をしたり日常生活が送れるという段階の方が、治療を受けたら、痛みが軽くなったという治療法も確かに存在します。
ただし、日常生活は何とかできるものの、相当強い痛みが持続する状態になり、それが数年以上続いた患者さんで、その強い疼痛が治療の結果、きれいに取れたという方は、なかなかおられないようです。
設定した基準までの回復は見込めなくても、痛みが少しでも軽くなる治療法が、それ以外に何もないかということになると、管理人が調べた範囲では、いくつかあると思います。
というのは、HPを作成する際に、大脳指向型(BOOT)咬合療法以外に効果のある治療法はないかと思い、重症だったところから劇的に回復した患者さんがおられれば、じかに話を聞きたいと思い、ずいぶんいろいろな方からお話を伺ったからです。
その結果として、治療を受けたほとんどの患者さんの痛みが軽くなるとまでは言えませんが、多くの患者さんの痛みが軽くなったという治療法はいくつかあるようです。
設定した基準まで届かなくても、少しでも痛みが軽くなる可能性のある治療法を記載するのも無意味ではないと思うので、下記にいくつか紹介します。
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代替治療について
*代替治療とは
日本には日本補完代替医療学会(http://www.jcam-net.jp/)という学会があります。学会では、1998年から毎年学会を開いて、医師や専門家の方がそれぞれ代替治療について発表しています。
(以下は、日本補完代替医療学会のHPより引用)
「アメリカにおいては、1992年米国議会がNIH(米国国立衛生研究所)内において世界的な最先端医学研究施設の一つとしてOAM(代替医療事務局)を設立し、現在、OAMには年4千万ドルの資金が充てられています。(中略)
代替医療とは具体的には、中国医学(中薬療法、鍼灸、指圧、気功)、インド医学、免疫療法(リンパ球療法など)、薬効食品・健康食品(抗酸化食品群、免疫賦活食品、各種予防・補助食品など)、ハーブ療法、アロマセラピー、ビタミン療法、食事療法、精神・心理療法、温泉療法、酸素療法、等々すべてが代替医療に包含されています。」
(さらに詳しくは、学会のHPをご覧下さい。)
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*線維筋痛症の代替治療について
線維筋痛症の場合、出現している症状や重さ、また、何が刺激になって痛みが増幅するかは、人それぞれだと思います。
また、薬に副作用があるのと同じように、代替治療にも副作用の可能性はありますし、線維筋痛症が「弱い刺激に対しても過剰に反応する症候群」の一つとすれば、代替治療による小さい刺激が悪化に結びつくこともあると思います。どの治療を選ぶにしても、体とよく相談して、必要であれば、専門家などに相談されることをおすすめします。
下記に紹介するのは、管理人が「効果があった」という情報をいただいたものが中心です。でも、その治療でかならずしも効果が出るとは限らないですし、逆に悪化することもありえると思います。
それぞれの治療内容や、リスクや安全性、効果、また自分の症状に適合するかどうかは、それぞれご自分の目で確認されるようにお願いします。
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a.漢方治療
私は、線維筋痛症の患者さんで、休学するくらい悪かったところから、漢方治療で、ほぼ日常生活ができるくらいまでよくなった患者さんと、その反対に、かなり高額の漢方薬を服用しましたが、床をかきむしるくらいに辛い副作用が出て、まったく効果がなかったという患者さんと、両方の患者さんに会ったことがあります。
処方や治療のどこが違うのかについて、聞いた範囲で感じたのは、およそ以下の通りでした。
効果があったという患者さんへの漢方治療は、問診に30分以上の時間をかけ、触診や舌の診療などを行い、また症状や発症してからの経過などを詳しく聞き、それに応じた処方を行うという感じでした。手間のかかったオーダーメイド的な処方という印象でした。
その医師の方は、西洋医学のライセンスを持ち、また、漢方薬については2000種以上の漢方薬の調合に詳しく、処方の方法も、同じ薬剤を、お湯で飲むか、水で飲むか、覚ました水で飲むかなど、症状によって、それぞれの飲み方や飲む時間、食前食後まで指示されるということでした。たとえ同じ薬でも、どのような飲み方をするかによって、違う効果が出るという話でした。
また、医師の処方は、患者さん固有の症状や経過に応じて違うので、ほかの人への処方としては使えないということでした。
その患者さんは、家からまったく出られず自殺を考えたというところから、日常生活がほぼできるくらいまで回復していましたが、そこまで治療開始後2年近くかかり、また、完治まではたどりついていませんでした。
この漢方治療をしている医師の治療では、ほかにも複数の患者さんが、かなりの程度まで回復しているようでしたが、話を聞いた範囲では、うまくいかなかったという患者さんもおられました。
一方、漢方治療で辛い副作用が出て、うまく効果が出なかった患者さんの話では、処方はオーダーメイドというよりも、「この薬には効果があるから」といった感じの処方だったようです。
もちろん、そういう治療で効果のある患者さんもおられるかもしれませんが、線維筋痛症が一度悪化してしまうと、(私の場合もそうですが)、本当に手間のかかる、オーダーメード的な治療でないと難しいのではないかという気がします。
私自身は、過去に一度漢方治療を受けたことがありますが、残念ながら効果はあがらず、すぐに中止しました。
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*患者が知っておきたい漢方の基礎知識
漢方治療については、日本東洋医学会会長、寺澤捷年さん(千葉中央メディカルセンター和漢診療科部長)が、「患者が知っておきたい基礎知識」を紹介しておられます。
(下記の記事の参考・および出典、2010年4月21日 読売新聞・渡辺理雄)
・漢方治療は、患者の体全体の調和をはかれるよう、複数の生薬からなる薬を処方します。1971年から、保険適用が認められています。
日本の漢方治療は、中国、韓国と違って、一人の医師のもとで西洋医学、漢方の両方の治療が受けられます。つまり、局面に応じて、西洋薬、漢方薬の使いわけが可能です。現在の漢方は、西と東のいいところを取って、最良の結果を出すことを目指しています。
・漢方に関するQ&A
Q.どんな患者が来ますか。
まず、西洋医学の治療ではうまくいかない患者さんです。
たとえいい薬があっても、発疹などの副作用が出てしまう患者に、漢方をためしてみることは、よく行われています。
次に、食欲不振、不眠、下痢、耐え難い痛み、気力減退など、体の不調を感じているものの、原因が分からない患者です。
漢方は、人間が持っている自然治癒力を引き出すのが得意です。
患者は7対3で女性が多いです。天然の草根木皮を使いますから、安心感があるのではでしょうか。
また漢方は、処方を決めるのに、患者の話をよく聞かなければなりません。初診の患者は、30分くらい診察にかかります。そうした診療が、高い満足度につながっていると思います。
Q.副作用はありますか。
漢方にも、副作用はあります。甘草という生薬の成分が蓄積しやすい体質の人は、長期間の服用で、血圧が上がり、むくみが出ます。
まれに、命にかかわる間質性肺炎を起こすことがあります。
薬剤性の肝障害の心配もあります。大事に至らないようにするため、3〜4か月ごとに血液検査を受けるのがいいでしょう。
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Q.長く続けないと効果が出ないのでしょうか。
一般的には、3〜4週間で効果が分かります。関節リウマチならば、この期間で痛みは十分に取れないかもしれませんが、食欲が出てきたとか、良く眠れるようになったとか改善が見られるようになります。
良い兆候がないなら、処方が合っていません。薬を変えてくれるはずです。
Q.どうやって漢方医を探せばいいでしょうか。
日本東洋医学会のウェブサイトには、2700人の漢方専門医の情報があります。専門の診療科で検索できるので、近くにいる医師を探してみてください。
(参考)
(日本東洋医学会HP)
http://www.jsom.or.jp/index.html/
*FM患者さんに投与されるおもな薬剤は、抗うつ剤や、抗けいれん薬にしても、鎮痛を目的としていることが多いです。鎮痛効果があったとしても、鎮痛を目的とする限りは、長期間、飲み続けなければならない場合が多いと思います。
漢方治療の場合、体が回復していけば、薬を減らしたりしていくことは可能のようです。
「人間の持つ自然治癒力を引き出すのが得意」な漢方の特徴が発揮されれば、FM患者さんの恩恵になる場合もあるかもしれません。
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*漢方治療と西洋医学との違い
漢方治療は、西洋医学の治療とは、めざすものや、治療の概念、治療体系が違うようです。漢方治療は、多くの線維筋痛症の患者さんには馴染みがないのではないかと思いますが、下記の、はまだクリニックのはまだ医師が、ブログ上で患者さんにも分りやすい記事を書いておられます。はまだ医師の許可を得て、下記に転載します。
はまだクリニックのホームページ。
http://www.hamadaclinic.net/
はまだクリニックのブログ。
http://blogs.yahoo.co.jp/hamadatrial
(以下、ブログより転載)
日本の医師は、西洋医療と漢方、鍼灸を行える、世界で唯一の資格を持っています。
日常診療では、西洋薬に加えて、必要であれば漢方薬を処方しています。
漢方における病気の分類は西洋医学とは異なり、病気だけの分類ではなく、患者さんの体質分類も含まれます。
体質は次の2つに分類されます。
陽:丈夫で、胃腸が強く、活動的、代謝が活発。
陰:虚弱で胃腸が弱く、家にいることを好む、代謝は低下ぎみである。
さらに、気温の変化やストレス、微生物の侵入といった、体の恒常性を乱す外からの変化に対する人体の反応については、
実:変化に対して過剰に反応する。
虚:変化に対してあまり反応しない。
に分けられます。
漢方では、病気を解剖学的、あるいは病理学的に分類せず、身体全体をシステムとして捉えて、システムの異常という考え方で病気を分類します。
ヒトの生命活動を支えるシステムには、
自律神経・生命エネルギーシステム(気)、
血液・栄養・内分泌システム(血)、
水代謝・免疫システム(水)
の3つがあります。
これらのいずれかが歪むことにより、病気が起こります。しかも、この3つは互いに影響を及ぼし合っているので、複数のシステム異常が病気の原因となります。
病気の分類
システム異常によって起きる病気には、以下のようなものがあります。
自律神経・生命エネルギーシステム(気)の異常
気逆:自律神経の過敏:いらいらする、動悸がする、異常に発汗する。
気虚:エネルギーの不足:元気がない、やる気がない。
気うつ:自律神経の停滞:意欲がでない、落ち込む、胸が詰まる。
血液・栄養・内分泌システムの異常(血の異常)
血虚:貧血、栄養不良、ホルモン低下:元気が無い、疲れやすく集中力ない。
お血:血液循環が悪い:肩が凝る、腰が痛む、足先が冷える。
免疫・水分代謝システムの異常(水の異常)
水毒:水代謝異常:浮腫む、喉が渇く、関節が痛む。
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生命エネルギー(気)は、全身を上から下へ循環しています。 気虚は、気が足りないこと、気逆は気が下から上に逆流すること、 気うつは気の流れが停滞することです。
過労や暴飲暴食などの不摂生はシステムの機能を低下させますし、 加齢(腎虚)はシステムの予備能力の低下をもたらします。
これらの要因があると、内的、外的なストレスによるシステム異常、すなわち病気になりやすい状態になります。患者さんを見て、問診して、診察してこのようなことを考えながら、患者さんの体質に合った漢方薬を探します。
風邪のような急性症状に対して漢方治療する場合は効果の有無が早く判りますが、慢性のめまいなどは効果判定に時間がかかります。
患者さんによって効果が全く出ないときは大体、二週間を目途に処方を変更します。
漢方薬がすべての病気に効果があるとは言えませんが、西洋薬治療では対応しきれない症状に対しての切り札となりえる可能性があります。
(管理人:注)
「食欲不振、不眠、下痢、耐え難い痛み、気力減退」といった症状は、多くの線維筋痛症患者の方に当てはまる症状だと思います。
また、線維筋痛症の治療は、西洋医学の治療だけではうまくいかないこともあります。そういったとき、漢方治療が線維筋痛症の患者さんの恩恵になる場合もあるのではないかと思います。 |
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(参考)
2010年4月20日付・読売新聞・医療ルネッサンス(No.4821)
30代女性・線維筋痛症の患者さんが、埼玉県小川町の大野クリニック・大野修嗣院長に漢方の処方を受け、三カ月である程度回復し、「気持ちも前向きになれた」例が載っていました。
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b.鍼灸治療
FMへの鍼灸治療に関しては、線維筋痛症学会が研究会だったころから、効果を発表しておられる研究者の方もいます。
*灸治療
・2008年に発行された週刊朝日増刊号「心と体にやさしい漢方」に、線維筋痛症の治療をしている医師として、「東京女子医科大学付属・青山自然医療研究所クリニック」斑目健夫医師が紹介されています。
斑目医師は、線維筋痛症研究会や、第1回線維筋痛症学会でも、伝統的な灸を使った治療による効果を発表しています。
研究会では、子供の患者さんが回復した例、学会では、綿花を使用した灸治療で、60代の女性が回復した例などを発表しています。(60代の患者さんは、疼痛出現後、5か月めでの受診ということでした)
学会の演題「綿花を用いた灸治療により急速に疼痛が改善した線維筋痛症の一症例」
医師によれば、「灸治療は、患者自身で治療可能で、治療頻度を高くすることが可能であり、疼痛には有効性が高い」ということです。
(ただし、治療には、高い温度による刺激を避け、心地いい温度に調節することが大事ではないかと思います。) |
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*鍼治療
・明治国際医療大学 鍼灸学部 伊藤和憲治療師が、第1回線維筋痛症学会で、症状が改善した症例を発表しました。
学会の演題「線維筋痛症患者の消化器機能に対する鍼通電治療の効果」
*参考図書
「はじめてのトリガーポイント鍼治療」 (医道の日本社)
伊藤 和憲 (著)
(管理人注::この治療で効果を感じたという患者さんから、ご連絡をいただきました。)
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*鍼治療
金子芳幸(愉愈庵遊風、づつなし世多朗)
術伝(和方養生技術伝承塾)主宰
術伝HP http://www26.atwiki.jp/jutsuden/
ブログ http://d.hatena.ne.jp/kuhuusa-raiden/
HPの「顎関節症と線維筋痛症」のページで著書を紹介している油井香代子さんから、線維筋痛症の治療をされているこちらの鍼治療師の情報をいただきました。
この治療師の方は、90年代半ばから、線維筋痛症らしき患者さんが増えてきたことに気がついたそうです。最初は何の病気かわからず、不思議に思っていたそうですが、最近、この類の患者さんがさらに増えてきたと感じるそうです。そのうちの多くの患者さんが、正しい診断をつけられずに症状を悪化させているということです。
この方は、早稲田大学理工学部で勉強した技術者で、人体を電気的な側面から診た場合、線維筋痛症や自己免疫疾患のような病気も、電気的な乱れに関係するかもしれないということです。鍼治療は、その乱れを正常にする働きがあるのかもしれないということです。
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管理人注
*鍼治療の場合は、さまざまなやり方や、流れがあり、いろいろな治療師の方がおられるようです。
治療効果が上がるかどうかについては、患者と治療師側の組み合わせにもよると思いますし、線維筋痛症という難しい疾患に対する、知識や経験の問題もあると思います。また、治療に使う鍼の太さや種類、刺す深さなどは、それぞれのようです。
ただ、鍼灸治療に取り組む方の中には、FM患者さんのさまざまな訴えに対応して、一生懸命に治療を工夫してくださる治療師の方も、少なくないようです。
治療師の方も、さまざまな症例の患者さんを多く手掛けることによって、効果がさらに上がったり、治療の効率が上がることもあるかもしれません。
患者と治療側の方が、協力して治療にあたっていけば、いろいろな面で、症状軽減の効果が出ることもあり得るかもしれません。
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参考および引用
2008年発行:週刊朝日増刊号「心と体にやさしい漢方」
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c.呼吸法
呼吸法に関しては、HPの「治療の組み合わせ 2−4.腹式呼吸法」および、「リンク集 1.新しい呼吸法を提唱している「あらき心療クリニック」のHP」をご参照ください。
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d.徒手による治療
*筋膜療法/Fa-ther (Fascia-therapy)
上記の治療法について、2010年9月に、吉岡紀夫治療師から投稿頂きました。吉岡治療師は、第1回線維筋痛症学会でこの治療法を発表しています。
参考:
第1回線維筋痛症学会「線維筋痛症」と(もう一つの系統)について
吉岡紀夫:平成医療学園専門学校
内野勝郎:平成医療学園専門学校・大阪大学大学院歯学研究科口腔解剖学第二口座
吉井健吾:平成医療学園専門学校
*参考図書
「"変形/痛み"の治療革命!筋膜療法/Fa・ther」(たにぐち書店)
「異次異次元"体のゆがみ"の治療法 (単行本) (たにぐち書店)
ともに、吉岡紀夫 (著)
(トリガーポイントとの関連では、下記の本も出版されています。)
「トリガーポイントと筋筋膜療法マニュアル 」(医道の日本社)
(以下に、吉岡治療師の投稿を採録します)
ウィルヒョウの『細胞病理学』(1858年)ではじまった医学は、その基盤をなす人体の構造認識は各論が主になって、総論は曖昧で、投薬と手術を主とする医療との関わりから、次第に“器官・系統”の周囲や間隙の構造は省略され、それで「痛み」の発生機序や整形外科領域などの不明が生じたと考えられます。
『今日の診断指針(3版)』(医学書院1995年p.228)は、「痛み」を発症する体壁の組織として「コラーゲン」主体の真皮・筋膜・靭帯・腱・骨膜などをあげ、「筋の発痛は特定の物質以外には起こらない」と記述されています。
私は、線維筋痛症の診療対象は筋ではなく、18箇所の鑑別点の組織でもある“もう一つの系統”(仮称)『支持身体感覚系』であることを、第1回の線維筋痛症学会で発表しました。
・「線維筋痛症がわからない」のは、なぜ?
・「痛み」は、筋で起こるのか?起こらないのか?
・線維筋痛症の改善法とは
・「ずり圧」のかけ方
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1/4「線維筋痛症がわからない」のは、なぜ?
医学、医療は、人体を構成するという“器官・系統”を診療し、“器官・系統”の周囲や間隙は体の“無番地”状態になり診療対象になっていません。
“器官・系統”を支持する“狭義の結合組織”は、体重の1/15を占める「コラーゲン」の多くと「水」が主体の組織でボリュームがあり、散在する細胞成分は極めて少なく、密性線維性結合組織と疎性結合組織が区別されます。
前者は一連の線維性の筋膜や靭帯などで、器官を保護し神経終末が密に分布して身体体感覚を感受し、後者は脈管外通液路として代謝や免疫の作用があり、細胞間隙の研究(細胞外マトリックス)や組織の主たる細胞(:線維芽細胞)への遺伝子、蛋白質の導入でiPS細胞ができる研究(2007年)は再生医療実現をアッピールし、多能な機能から私は“もう一つの系統”『支持身体感覚系』と名づけました。
それは、A.T.スティール医師のオステオパシー(1874年創始)の“Fascia”と通じていますが、線維筋痛症は、筋ではなく、筋膜などの“Fascia”(:支持身体感覚系)が硬くなって生じているのです。
2/4「痛み」は筋で起こるのか?起こらないのか?
線維筋痛症学会では「筋に痛みが起こると考えて機械器的な刺激を与える実験をしたが証明できなかった」という報告もありましたが、“筋肉痛”は「筋肉には痛みを感じる神経がなく、本来は痛みを起こしえない組織です。・・・(佐々木哲也)」(『最新・医学全書@』小学館/中山書店編集1999年p.235)とされ、筋膜や阻血性の痛みとされています。
筋膜などの《膜》構造に発症する「痛み」は、「探すと部位が特定できない(:限局・局在しない)深部痛覚」です。各系統の周囲や間隙にある『支持身体感覚系』が欠落したビジュアルな近年の解剖書は、誤った構造認識も植えつけています。
誤った構造認識が、線維筋痛症やムズムズ脚症候群、肩こり・五十肩、腰痛、膝の痛みなどの不明になり、的確な施療の不毛で患者を苦しめてきました。
医療では治せないとされるO脚や脊柱側弯症も、筋膜などの“Fascia”をストレッチングで伸展して、動かし伸ばして、患者が「肩を後に退いてお腹をへこめ、伸びやかに立つ、歩くができる」と優雅な体つきに変身し完全治癒が実現します。
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3/4線維筋痛症の改善法とは
線維筋痛症は、多くが外傷や手術の後に発症し、誰もが陥るとされていますが、体の動きが小さく少なくなると“器官・系統”を包む筋膜などの“Fascia”が硬くなり、その異状のシグナルが「痛み」と考えられます。
硬くなった“Fascia” の改善は自力では難しく、寝たきりの患者のリハビリテーションを依頼されて、摩擦抵抗が大きいことを利用して滑らせずに横方向にずらす他動的なストレッチング「ずり圧」に行き着き、初回の術後に「気持ちよかった」と評価をいただき成功しました。
“Fascia”が硬縮すると「圧す」「揉む」「摩る」の手技では施療できない場面があり、少ない圧で与えるエネルギーが大きい「ずり圧」は新境地を開きました。
“ストレッチング”は、筋ではなく、周囲の筋膜などを伸展して柔軟性を高め、筋の活動環境を整えています。
線維筋痛症の改善は、先ず四肢(特に、下肢)の改善です。「ずり圧」で“Fascia”を満遍なく伸展し、動かし、屈曲位・伸展位を持続して体の柔軟性を高めると、患者が体を動かしやすく、改善を容易にします。
4/4「ずり圧」のかけ方
「ずり圧」は、施術をする部位にタオルを置いて、術者は両手をのせ、間を置いて上体を前方に倒して、皮下の筋の表面を引っ掛けるように「ずり圧」に入り約1分半持続します。術者は背すじ、肘を伸ばし、上体の傾きで「ずり圧」の“ずり幅”を調整しますが、最初は小さく、回数が増すに従い大きくして、筋膜(Fascia)を伸展します。
“Fascia”は、体操や運動の際は“弾性”で元に戻り、張力が持続すると元に戻らない“可塑性”で、体を縮めていると柔軟性が損なわれて動けなくなります。
日常的に「肩を後に退きお腹をへこめた」伸びやかな人は温もりのある快感が生じ、「肩を楽にして力を抜き体を縮めている」人は、動きが少なくなって体が硬くなると冷えや痛みなどの不快感で苦しみます。
「ずり圧」、運動、可動粋な拡大で、体の柔軟性を得る一方で、患者が「肩を後に退きお腹をへこめ、四肢を丁寧に伸ばしきる」立ち方、歩き方を実現して変身すると、線維筋痛症は治癒します。「○○で治る」という表現は、間違っています。
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(管理人:注)
今年発行された「線維筋痛症がわかる本」にもあるように、線維筋痛症は、まだ日本では正式に病気として認められているとはいえません。そういうなかで、吉岡先生がこの病気の治療にあたっておられることを、患者として、とてもありがたいと思います。
私が知っているなかに、線維筋痛症や、重症の腰痛を発症し、薬剤を含むさまざまな治療法を模索し、結果的に手技による療法にたどり着き、その治療で回復し、自分もその治療法を取得し、患者から治療する側に回って、患者さんに治療を行っている方が何人かいます。
そういうことを見ても、手技による治療は、それなりに威力があるのではないかと個人的に感じています。
HPで紹介している「Fibromyalgia & Other Central Pain Syndromes」という本には、線維筋痛症を説明する新しい概念である「Central Sensitivity Syndromes」(脳中枢の過敏化)は、今までの医学にはなかった、新しいパラダイム(枠組み)であると書かれています。
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治療の面でも、やはり、これまでは治療としては定番だった薬剤以外にも、さまざまなアプローチによる治療が模索されたり、研究されたり、効果が確認されたりする可能性はあるのではないかと思います。
その意味で、上記の治療法で回復する患者さんがおられても不思議ではないと思いますし、こういった研究が進み、さらに多くの患者さんが救われればと思います。
それでも、自分自身の経験を通じて思うのは、上記の「Central Sensitivity Syndromes」(脳中枢の過敏化)が激しく起こった患者の治療は、とても難しいのではないかということです。
私の場合も、回復にはとても長い時間がかかりました。また、悪化した患者さんの場合、手技による治療で一度回復しても、しばらくすると、また痛みが再発したという患者さんもおられるようです。
なぜそういうことが起こるのか、患者として考えてみると、閾値(いきち)の問題があるのではないかと感じます。
閾値については、「中枢覚作」のなかの新潟大学大学院医歯学総合研究科器官制御医学講座 准教授 河野 達郎先生の 「痛みの研究」という論文の中に言及があります。
また、上記の「Fibromyalgia & Other Central Pain Syndromes」にも、非常に詳しい説明があります。患者としては、日々、体で感じる痛みの変化を通じて、とてもよくわかる現象です。
治療の結果として、一度閾値が上がっても、痛み信号が継続して脳に入力されていると、その累積によって、また脳の閾値が下がってしまうということがあるのではないかと思います。
また、患者さんに対して一言だけ付け加えると、手技による治療は、どんな治療も一律に効果を上げているということではなく、成果を上げている治療師の方は、それぞれに治療の研究をして、修練や経験を積み、努力して患者の回復に結び付けていると感じます。
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*筋肉・トリガーポイントへのマッサージ
この治療を受けた患者さんから直接に話を聞いたところによれば、寝たきり状態の患者さんのうち、約7割くらいが、休み休みであっても歩けるくらいに回復しているということです。この快復率は、重症の患者さんにとっては希望を感じとれる数字といえると思います。
しかし、この治療法については、学会などで発表した数値的データがないので、詳しい治療内容などを記事としては載せずに、リンク集の中で、治療を行っている医院のサイトを紹介しています。
HPの「治療の組み合わせ」でも書きましたが、中枢性の痛みであっても、末梢の筋肉には、張りや凝り、強ばりなどの変化が起こっていることが多く、それに作用するかたちでの筋肉へのアプローチは、それのみの治療でも、ある程度の効果が望めるということではないでしょうか。
「針治療で痛みが楽になった」という患者さんが多く存在するのも、末梢の筋肉への治療が、それなりの効果を上げ得るということを示しているのではないかと思います。
同じように、トリガーポイントへのブロック注射も、患者さんによっては痛みが楽になる効果があるようです。
(しかし残念ながら、両方の治療とも、痛み、それ以外の症状ともに、再発する患者さんもいるといった話もあるようです。)
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・オステオパシー
管理人自身はこの治療を受けていないのですが、この治療で確かに痛みが楽になったという患者さんはおられるようです。海外でも、線維筋痛症患者がこの治療を受けているという情報もあります。
(以下は、更に詳しい記事を作成中です)
E.サプリメント
線維筋痛症との類似疾患である慢性疲労症候群の治療を行っている医師が、慢性疲労症候群に効果があるサプリメントを紹介しています。(記事作成中)
(その他)
・ヨガ
痛みを我慢しながら、短時間の仕事なら続けられるという段階の患者さんから、ヨガで痛みを我慢するのが楽になったという話を聞いています。比較的軽い段階の患者さんには、ヨガで痛みが軽くなることもあるようです。
・食事療法
この治療で線維筋痛症の治療を行っている医師から、回復した症例に関する資料をいただいています。現在、記事を作成中です。
線維筋痛症患者のなかには、化学物質過敏症を併発している方がかなりおられます。そういう患者さんには、この食事療法は希望が持てる治療法ではないかと思います。
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*薬剤
(管理人注:)
薬剤治療については、2010 年6月に出版された「線維筋痛症がわかる本」に、詳細な説明があります。この本は、トップページと、「世界の論文をまとめた教科書」のページで紹介しています。
*ノイロトロピン
線維筋痛症患者の多くには現在、ノイロトロピンが投与されています。このノイロトロピンは、HPの「線維筋痛症の概念」のなかで書いたように、脳の痛み中枢のなかの下降性疼痛抑制系に働きかけ、この抑制系を活性化させる薬剤です。私はこのノイロトロピンが効果があったという方に話を聞きたいと思い、あちこちで、かなりの数の患者さんから話を伺いましたが、残念ながら、劇的に効果があったという方には、まだお会いできていません。
ノイロトロピンがさらに改良されるなどして、多くの方に画期的に効果がある薬剤が一日も早く開発されればいいと思いますが、HPの「線維筋痛症と化学物質過敏症」で書いたように、患者は化学物質過敏症を併発していることが多いので、これをクリアし、なおかつ患者が劇的に回復できる薬剤が開発されれば、患者にとって大きな恩恵になると思います。
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*リリカ(一般名はプレガバリン)
これは、日本では未承認の薬剤です。GABA前駆体の一つであるプレガバリン(リリカ)は、神経の過剰な伝導性を抑制すると期待されます。
(GABA前駆体については、「中枢感作」のなかの「痛みの研究」という論文のなかに言及があります。)
リリカに関する海外の状況は、以下の通りです。
*アメリカ食品医薬品局(FDA)は、線維筋痛症の治療に使用することを許可しました。
*ヨーロッパで、これをうつ病などの治療に使用することは許可されていますが、ヨーロッパ監督官庁は、これを線維筋痛症の治療に使用することは、許可しませんでした。
(出典:「線維筋痛症がわかる本」)
以下は、私と同じ治療を受けている患者さんから聞きました。
その方は、いろいろな薬を試した結果として、どれも効果はなかったのですが、リリカを個人輸入して初めて飲んだときに、それまでと違う印象を受けたそうです。その患者さんは、私と違って化学物質過敏症がない患者さんです。
最初は25ミリから飲み始め、効果を感じたので現在はかなり多量に飲んでいるそうです。
以下は、その患者さんから話を聞いた私の印象です。
その患者さんは、医師のコントロール下ではなく、自分の判断で飲んでいるそうです。ということは、現在ある痛みを、リリカの効き目で抑えることになります。
すると、行っている治療と上手く両立できるのかどうかという疑問が生じます。痛みをリリカで抑えて無理をし続けると、身体を回復させるべき治療に差し障りが出ることもあるからです。
リリカで痛みが軽くなることそのものは、患者にとっては朗報なので、化学物質過敏症のない患者のばあい、医師のコントロール下で、身体を回復させる治療に役に立つ形で、活用するべき薬剤かもしれません。
また、リリカに限らず、海外から医薬品を個人輸入して服用する場合、もし、それによって重篤な副作用が出た場合でも、国による救済制度(医薬品副作用被害救済制度)の対象になりません。
そのような事情により、国は以下のように注意を促しています。
「医薬品等の個人輸入については、通常、メリットより危険性(リスク)の方が大きい場合が多いと考えられます。そうした外国製品によって不利益をこうむるのは、それを購入する患者さん、患者さんの御家族であることに留意してください」
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(参考)
リリカの海外臨床試験(脊髄損傷者への臨床試験)
海外では、リリカ(プレガバリン)の臨床試験も行われています。以下に、せき髄損傷の患者さんに対する臨床試験結果を載せます。線維筋痛症患者へのものではありませんが、参考になるかもしれません。
*注:この臨床試験は、12週間の多施設・ランダム化された臨床研究で、プレガバリンを1日2回(BID)、150〜600mg/日量を70人の患者と67人の対照群に処方した。
脊髄損傷に起因して、中枢性の神経障害性疼痛が慢性に続く患者137名による臨床試験で、プレガバリン群の患者はプラセボ〔偽薬〕群の患者に比べ、疼痛平均強度の有意な低下が認められた。
プレガバリンによる疼痛の軽減は投与第一週目に早くも発現し、試験期間中、維持された。
30%以上の疼痛スコア軽減が認められたのは、プレガバリン群の患者では40%以上、プラ セボ群の患者では16%であった。また、プレガバリン群の患者は、プラセボ群の患者に比べ、痛みによる睡眠障害が有意に軽減した。
患者が最も多く報告した有害事象は、眠気、目まい、浮腫、および無力症(疲労感)である。大半の有害事象は軽度から中等度の傾向で、一般に投薬量と相関関係があった。
認知機能および全体的な運動機能の障害に至る可性のある特定の有害事象が、プレガバリンをオキシコドン、ロザゼパム、エタノールなどと併用投与した場合に起きやすくなる可能性がある。
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(管理人:注)
これをみると、30%以上、痛みが軽くなった患者さんは4割以上で、5割には届かないといった数字のようです。プラセボ群(偽薬)の患者さんは、16%だったということです。このデータをみると、5割を超える患者さんには、30%を超える効果はないということで、一患者からみると、厳しい数字という印象を受けます。
また、有害現象(いわゆる副作用)では、単独で服用した場合、「眠気、目まい、浮腫、および無力症(疲労感)」が出て、「大半の有害事象は、軽度から中等度の傾向で、一般に投薬量と相関関係があった」ということです。
また、患者として気になるのは、「認知機能および全体的な運動機能の障害に至る可能性のある特定の有害事象が、プレガバリンをオキシコドン、ロザゼパム、エタノールなどと併用投与した場合に起きやすくなる可能性がある。」という記述です。
認知機能、運動機能障害は、患者にとっては、非常に重要なことがらです。この二つは、人間として「生きる」行為そのものにかかわり、、もし、この二つの機能が損なわれてしまえば、ただでさえ痛みで苦しんでいる患者さんの人生に、大きな支障が出ることもあると思います。
これは、せき髄損傷の患者さんへの臨床試験結果ですが、そういった「障害に至る可能性のある特定の有害事象」が、「オキシコドン、ロザゼパム、エタノールなどと併用投与した場合に起きやすくなる可能性がある」というのは、線維筋痛症患者にも、参考になるかもしれません。
出典、および参考
JSCF NPO法人 日本せきずい基金
http://www.jscf.org/
*日本せきずい基金は、世界の医学関係者が注目する、世界的に権威のあるイギリスの総合学術雑誌「nature」に記事が紹介された団体です。
「日本せきずい基金ニュース」No.43 (2009年12月発行)
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