顎関節症と線維筋痛症の関係



 1.顎関節症と線維筋痛症の関係、および治療

 2.NHK総合TV(2009年6月10日放映)
「ゆうどきネットワーク・痛みが全身に広がることも。顎関節症に注意」
翼突筋除痛療法(旧名BOOT療法)が紹介されました。

 3.顎関節症と線維筋痛症の関係が報道された新聞記事
「線維筋痛症 原因不明で全身に激しい痛み 9割に顎関節症」

 4.患者から見た「線維筋痛症」と「顎関節症」の関係
 T.「線維筋痛症」である私と「顎関節症」
 U.重症の顎関節症について
 V.回復を心がけるときの、心の持ち方(管理人の例)

 5.参考資料
 T.翼突筋除痛療法による、顎関節症患者の治療・快癒例

 U.顎関節症と線維筋痛症の関連を裏付ける、海外の論拠
  A.ワシントン大学のRhodusなどの報告
  B.ミシガン大学のKorszunたちの報告
  C.アメリカリウマチセンター・ウォルフ教授(線維筋痛症研究者)の研究

 V.翼突筋除痛療法を行っている医師による学会発表

 *参考 咬合治療について

1.顎関節症と線維筋痛症の関係、および治療

顎関節症と線維筋痛症

管理人自身にも、顎関節症の症状があります。そして、線維筋痛症を発症した多くの人が、この顎関節症も持っています。また、たびたびホームページで紹介している「中枢感作」によって引き起こされる疾患グループの中にも、この顎関節症は入っています。
世の中ではポピュラーな顎関節症ですが、この疾患と線維筋痛症は、じつはかなり密接な関係があることが、最近、臨床的に分かりつつあります。

顎関節症には二種類あって、わりとすぐによくなるものと、なかなかなおらず、かえって悪化していくものがあること、そして、なかなかよくならない、つまり難治性の顎関節症が、線維筋痛症の発症と深い関わりがあることが、海外の研究者が発表した論文などによって、次第に明らかになりつつあります。
それについての記事があるので、以下に抜粋します。


※以下は雑誌「健」より抜粋。「健」は、中学校の保健室などに配られている雑誌です。発表した医師より版権了承済み。

顎関節症への一般的な治療

歯科医院や、口腔外科のある病院では、通常、スプリントと言われるマウスピースを使って顎関節症の治療が行われます。これは多くの方がご存じだと思います。
顎関節症を発症すると、それと一緒に肩や首、背中の痛み、あるいは耳がつまったような症状が出ることがありますし、倦怠感とか睡眠障害などが、一緒に始まることもあります。しかしこれまでは、これらの症状についてはあまり、顎関節症との関連を言及されてきませんでした。

近年、明らかになったこと

1990年代から海外では、顎関節症について大規模な疫学的調査が行われ始めました。そして結果として、この疾患を発症した患者のその後の状態について、さまざまに新しいことが分かってきました。

顎関節症を発症したうちの90%のケースでは、疾患はそれほどひどくならず、自然になおっていきます。しかし、残りの10%のケースでは、疾患がより重症になり、慢性化していくことが判明したのでした。
そして重要なことは、こうして重症になったり、慢性化していく患者さんには、従来広く行われているマウスピースを使う通常の治療法が、残念ながら効果がないということでした。

一般歯科医の顎関節症への知識

顎関節症が悪化したり、また慢性になった患者さんは、全体の10%と人数が少ないです。また、そういった患者さんは顎関節症の専門医のところに集中してしまう傾向があります。そのために、歯科医が重症になった顎関節症患者に逢うことは、一般にはまれです。
残念ながらそういったことで、重症化した顎関節症に対する一般歯科医の認識・知識は、いまだほとんど広まっているとはいえない状況です。

一方、世界に目を転じてみると、21世紀に入ってから、顎関節症には、スプリントによる治療が効果のある顎関節症、および効果がない顎関節症が、両方存在することが確認されました。
これは非常に最近のできごとで、この知識が日本国内の歯科医師のあいだに広まるまでには、まだかなりの時間がかかると思われます。

全身症状に的を絞った治療法

近年、顎関節症の治療を目的とした一般のスプリントとは違う、全身の症状を治療するために装置が開発されました。
そして、1997年ごろに、大阪大学医学部の研究グループが、この装置の臨床への応用(実際に患者さんに対して使ってみる)をはじめました。そしてこの装置は、従来使われていたスプリントでは効果がなかった、全身症状を伴う重症化した顎関節症の治療に効果が認められました。しかし、この治療法では、その有効性が不安定という欠点がありました。

そして、その一方で、スプリントの効果がない重症化した顎関節症のメカニズムについても、急速に研究がすすんできました。
数年前に、アメリカリウマチ学会のメンバーを中心とした線維筋痛症の研究者たちは、顎関節症と線維筋痛症では、「中枢感作」と呼ばれる共通の異常現象が起きていることをつきとめました。(ホームページの「中枢感作」のページ参照)
そして、スプリントを使っても効果がない、重症化した、(つまり難治性と呼ばれる)顎関節症は、じつは、線維筋痛症へ移行型の顎関節症であることが分かってきました。これも、非常に近年に判明したことでした。

これからの展望について

私は、線維筋痛症と顎関節症が、同じメカニズムで起こる疾患であることが分かったので、このメカニズム「中枢感作」の症状を、治療に応用することにしました。
私が具体的に行ったことは、大阪大学で開発された治療装置をさらに改良し、有効性が不安定だった部分をもっと改善するために、近年に分かった、この「中枢感作」現象を応用することにしたのでした。
その結果として、私の治療は、線維筋痛症と難治性の顎関節症について、高い有効率を得ることができました。
私はこの治療法を、2004年の日本リウマチ学会で発表しました。
そして討論時間の終了後に、会場内で線維筋痛症のブースを運営していた線維筋痛症の患者さん数人にご協力いただき、リウマチ学会の線維筋痛症研究者の医師たちに見ていただきながら、デモンストレーションのかたちで治療を行いました。私の行った治療には、とても高い効果があって、それを現場で見た線維筋痛症研究者の医師たちは、即効性も含めた効果に驚かれていました。

線維筋痛症関係の学会で行われた歯科医師による治療法の発表は、日本国内では私が初めてでしたが、海外では、医科と歯科による合同研究や、連携治療は珍しくなく、成果や効果を挙げている例が多々報告されています。
日本でも、遅ればせながら、そのような連携、合同研究が出来る体制が出来ることを、願っています。

*管理人注*
私は、2004年にリウマチ学会でこの医師が発表した内容を家族が見ていたことが、この治療を行うきっかけになりました。2006年に私の症状がいよいよ悪化し、にっちもさっちもいかなくなったころ、この発表を見ていた家族が医師の行っている治療法を思い出し、悪化してどうしようもなかった私にこの治療法を受けさせ、これに賭けてみることにしたのでした。その結果として、私は劇的に回復しました。

「データで見る回復効果」の欄にリウマチ学会で医師が発表した内容を掲載しております。

2.NHK総合TV(2009年6月10日放映) 
「ゆうどきネットワーク・痛みが全身に広がることも。顎関節症に注意」

翼突筋除痛療法(旧名BOOT療法)が紹介されました。


2009年6月10日に、NHK総合TV「ゆうどきネットワーク」の、「痛みが全身に広がることも・・・顎関節症に注意」という特集のなかで、翼突筋除痛療法(旧名BOOT療法)が紹介されました。

番組の内容と合わせて、かつて重症の線維筋痛症患者だった私自身の経験を付記します。

(以下は、「ゆうどきネットワーク」から)

1.顎関節症とは
2.顎関節症が重症化することも
 (翼突筋除痛療法:旧名BOOT療法の紹介)
3.「顎関節症か?」と思ったとき、治療に関して注意すること


顎関節症とは

顎関節症は、日本人の15%がかかっていると言われています。最近、顎から全身に痛みが出て重症になるケースが問題になっています。10年ものあいだ、ずっと痛み続け、仕事も変えざるを得なかったような重症の顎関節症の人もいます。

増える顎関節症と、その対策
(東京医科歯科大歯学部付属病院 顎関節治療部、木野孔司準教授による治療の紹介)

ここを訪れた顎関節症の患者さんは、延べで一万人、去年1年間でも二千人の新患が訪れました。
顎関節症の発症原因としては、ストレスによって、上下の歯を接触させている時間が伸び、それによって顎関節や筋肉に負担がかかるということが考えられます。
普通の人の場合、上下の歯を接触させる時間は平均して17.5分だそうです。でも、いろいろな原因でストレスがかかると、無意識に歯を食いしばったり、かみしめたりしてしまいます。それによって歯の接触時間が長時間化してしまい、筋肉症を引き起こす原因になります。

このため、対策としては、上下の歯を接触させる時間を減らすことが挙げられます。

対策1.
パソコン作業は、無意識に上下の歯を接触させていることが多いので、目立つところに「噛みしめ注意」と書いた紙を貼る。(「貼り紙」法)
対策2.
電話に注意。長時間の電話は、肩や首のコリを招き、顎の筋肉を疲れさせます。携帯電話を肩と顔の間に挟み、空いた両手で作業をしながら電話をするのも、首や顎の筋肉を疲労させます。
対策3.
うつぶせ寝の姿勢で読書をする、頬杖を突くなどの姿勢や癖に注意。いずれも肩や首のコリにつながり、顎などの筋肉を疲れさせます。
対策4。
爪を噛む、筆記用具を噛むなどの癖を見直す。


これらの生活習慣や癖の中に、顎関節症を発症させる要因があるので、それを見直し、よくない癖を直し、上下の歯を接触させる時間を減らします。歯の接触時間を減らすことと、それによって顎や頬の筋肉をリラックスさせることで、訪れた患者の9割に改善が見られるということです。

*線維筋痛症を発症した患者も、発症した時に何らかのストレスを抱えていたという人は多いですし、私もその一人です。
また、多くの線維筋痛症の患者さんや医師が、筋肉をリラックスさせることで痛みが楽になると言っています。たとえば、オステオパシーのカウンターストレインなどの筋肉をゆるめる療法で、痛みが楽になったという方もいます。このあたりも、顎関節症と共通しているようです。

2.顎関節症が重症化することも

(山田歯科医院の山田貴志医師と、その治療法「翼突筋除痛療法」の紹介)

顎関節症の大半は、軽症で、癖の見直しなどの治療で済みますが、中には、痛みが全身に広がり、重症化するケースもあります。
痛みが楽にならず、病院を転々として、治療に次ぐ治療を受けてもよくならない、「顎関節症難民」といわれる患者さんが存在します。こういった治らない顎関節症と、ある病気との関連が最近分かってきました。それが線維筋痛症です。

これは、全身に耐え難い痛みが延々と続く病気で、ほかにも不眠をはじめとするさまざまな症状が出て、日常生活を送ることもままならない患者もいます。
線維筋痛症と顎関節症、この二つを抱えている患者が非常に多いということが、最近分かってきました。アメリカでは、この二つの疾患を抱える人が、67.8%に上るという研究報告もあります。

これに関しては、山田医師のHPを参照ください。
http://www.yamadasika.jp/

(このページの最後、「3、参考資料 U、の A、ワシントン大学のRhodusなどの報告」に関連記事があります。)


*注:管理人の場合は、線維筋痛症がもっとも悪かったときも、口を開けるときに音がするだけで、顎関節の痛みはまったくありませんでした。
私は、顎よりも首の部分に強い痛みがありました。重症のむち打ちのような症状が絶え間なくあり、頭の重さを首が支えられない状態が続きました。首が激しく痛むので、首を左右に回すことも、振り向くこともできませんでした。
このような症状があった私にも、翼突筋除痛療法はとてもよく適合し、相当の回復ができ、それぞれの症状もかなり軽くなりました。
線維筋痛症患者さんは、顎よりも首に症状が出る方が多いようです。

これに関しては、讀賣新聞に連載された「顎関節症」の記事には、下記のような記述があります。
顎関節と首は、非常に近い位置にありますから、翼突筋が痛んだ場合、首にも強い痛みを感じる場合があるのではないでしょうか。

(2009年3月31日付)「顎関節症」2/6
「顔面や頭部の神経系は複雑だ。目の上、上あご、下顎の三箇所に分布する三叉神経は、こめかみ付近で一本になり、首の神経も合流する。合流した神経がいろいろな刺激で過敏になると、傷害のある部位と別の場所に痛みを感じる混乱がおきやすいという」

A.治療を受けた患者さんの紹介

主婦のKさんは、10年前に線維筋痛症を発症し、去年、顎関節症と診断されました。痛みが増し、歩行が困難になり、歩くときも補助具が必要です。
整形外科や心療内科など、10箇所以上の病院を転々とし、血液検査、MRI,CTスキャンなどの検査をしましたが、異常は見つかりませんでした。去年、ついに痛みが顎にまで広がりました。

*Kさんの状態。
発症してから10年間、一時間以上続けて眠れたことがない。同じ姿勢で寝ていると、激痛で目が覚めてしまう。一時は痛み止めや睡眠薬を10種類以上服用し、その副作用で日常生活に支障が出ることもあった。
*痛みの程度
体中がまるで雑巾のように絞られているような痛み。こむら返りが全身に起こっているような痛みが続いた。関節が固まって、下から強い力で引っ張られているような感じ。

Kさんの治療
今年、長野から山田歯科医院がある福岡に移り住み、山田医師の翼突筋除痛療法を始めました。治療開始後、半年で、Kさんの症状は改善に向かっています。
治療を行っている山田歯科医院は、厚生労働省の線維筋痛症研究センターと共同で研究をしている医院で、山田医師は、研究が進むアメリカの治療法をもとに、8年前から、顎関節症と線維筋痛症などを抱える患者の治療を専門に行っています。


B.治療法
山田医師は「外側翼突筋」の異常に注目した治療を行っています。
外側翼突筋は、頬の内側にあり、痛みを感知する視床下部と深く関わっています。何かの原因で翼突筋が痛むと、そこから視床下部に向かって痛みの信号が流され続けます。それによって、視床下部から全身に、大きな痛みが派生すると考えられています。

(当HPの「効果があった理学的療法」「痛み以外の症状」に、関連記事があります。)

山田医師の談話
顎関節症難民と呼ばれる人たちは、顎以外にもたくさんの症状があります。多くの歯科医師は顎しか診ないので、なかなか治療法が分かりません。
身体に出る症状を治すには、身体全体を含めて治療しなければなりません。「翼突筋除痛療法」は身体全部を診ながら、顎の筋肉の調整をしていきます。発想の転換による治療ですね。
そして外側翼突筋の緊張をほぐし、視床下部が痛みを感じない適切な状態に顎と筋肉を戻す治療をしていきます。

治療風景
山田医師は、顎の周辺だけでなく、身体のどの部分が痛むのかを、触診によってこまかくチェックしていきます。

*治療風景の映像を見ると、医師はさらっと適当に触診しているように見えますが、触診している筋肉名をすべて具体的に把握しています。
維筋痛症研究の過程で、九州大学の生理学教室に通い、身体にある全筋肉について、特長などを一つ一つ詳しく調べたそうです。
その上で臨床を重ね、それぞれの筋肉の反射作用を確認しながら、痛みを抑えられる位置に顎を誘導する治療を進めていきます。

(当HPの「効果があった理学療法」の「V、第二段階の治療」に関連記事があります)
             
C.患者の8割、300人の症状が改善している

この治療によって、これまでに山田医師が診察した患者の8割、300人の症状が改善しました。

(当HPの「治療法の優れた点など」に関連記事があります)


*顎関節症と線維筋痛症、この二つがどのように関係しているか、また治療法はまだ確立されておらず、現在、山田医師は線維筋痛症研究センターと共同で研究を行っています。
(患者から見ても、この分野での研究がもっと進めば、患者への大きな恩恵になると思います。)

C.「顎関節症か?」と思ったとき、治療に関して注意すること

重症だけではなく、軽症の顎関節症の治療でも、見直しが始まっています。
顎関節症には、これまでは上下の歯を削り、噛み合わせを整える治療が行われてきましたが、このような治療で、正常な歯を削ったり、抜いたりすることで、かえって症状が悪化することがよくありました。

4月に、福岡市に九州の歯科医師が集まって、最新の噛み合わせについて研究する学会(咬合機能研究会)が開かれました。そこで、軽症の顎関節症に関しては、「噛み合わせをよくするために、歯を削るなどの治療は行わないほうがいい」と報告されました。

九州大学大学院の古谷野潔教授によれば、噛み合わせを永久に変えるような治療に踏み込むと、咬合に違和感が出たり精神的なストレスが加わったりして、問題が複雑化して長引く、したがって、「今は、噛み合わせを永久に変えてしまうような治療は避ける」ということです。

管理人注:線維筋痛症の患者さんには、過去に歯科矯正をした方が本当に多いです。また、発症してからも、歯科治療をきっかけに症状が悪化したという人もとても多いです。私もその一人です。線維筋痛症を発症している場合も、噛み合わせを変えるような歯科治療には注意した方がいいようです。


上記の三人の医師が共通して言っていたことは、 顎関節症を、「重症化しない」「重症化させない」ためには、顎関節症への認識を新たにする必要があるということでした。
線維筋痛症患者も、やはり、症状を悪化させないためには、顎関節に負担をかけない気配りがあったほうがいいのではないしょうか。


引用および参考:

NHK総合TV「ゆうどきネットワーク・痛みが全身に広がることも・・・顎関節症に注意」2009年6月10日放映

山田歯科医院HP http://www.yamadasika.jp/

讀賣新聞 医療ルネッサンス「顎関節症」1/6−3/6





3.顎関節症と線維筋痛症の関係が報道された新聞記事

「線維筋痛症 原因不明で全身に激しい痛み 9割に顎関節症」


(熊本日日新聞社 6月4日朝刊より一部抜粋)

「線維筋痛症 原因不明で全身に激しい痛み 9割に顎関節症」

原因不明で筋肉、関節など全身に激しい痛みが持続する線維筋痛症。中年女性に多く全国の患者数は200万人以上と推定される。
スガ歯科医院(熊本市水道町)の菅健一院長は、「顎関節症を併発している患者が9割。咬合(噛み合わせ)不全の治療などで線維筋痛症が治る例も少なくない」と歯科的治療の重要性を訴える。

線維筋痛症は、検査しても器質的異常が出ないため病名がつかず、整形外科、リウマチ科、ペインクリニック、神経内科、精神科などを転々とするケースも多い。
厚生労働省研究班が中心となり、昨年、診断基準をまとめた。それによると、全身に18か所ある圧痛点のうち11か所以上に疼痛があり、それが3カ月以上続いていれば、線維筋痛症と診断される。

菅院長は、全身の18か所の圧痛点のうち肩から上に10か所あり、顎関節症や口腔顔面痛の症状がほとんどこの圧痛点に一致することに注目する。

同歯科医院では、線維筋痛症と診断され、紹介されてきた患者の顎関節症治療を実施。かみ合わせ是正のためスプリント装着、歯列矯正などに加え、痛みによるうつ症状を改善するためのカウンセリング、認知行動療法、痛みの悪循環を断つための微弱電流治療、リンパマッサージ、トリガーポイント(痛みの引き金部位)への注射、漢方、鍼灸などを併用している。統合医療が欠かせないためすべて自由診療で行う。

熊本市の55歳の女性患者は3年前、同市内の耳鼻咽喉科の紹介で訪れた。来院時は「全身にガラス片が突き刺さるような」痛みがあり、食事も満足にとれず、寝たきりに近かった。
治療の結果、全身の痛みもほとんど治まり、山ほど飲んでいた抗てんかん薬、抗リウマチ薬、抗うつ薬、睡眠薬などの薬もすべて切れた。今は元気に日常生活を送っている。

他の患者たちも、顎関節症や口腔顔面痛などの症状が取れると、全身に及ぶ痛みや、不眠、うつなどの随伴症状もほとんど改善されたという。

「線維筋痛症のすべてが顎関節症によって起こるとは言えないが、顎関節症や口腔顔面痛の治療によって、かなりの患者さんで全身症状も改善していきます」と菅院長。

(中略)

「痛みが治まらずに治療されないままだと慢性化し、全身に広がります。痛みが続くと大脳中枢が活性化し、過敏に反応するようになります。いったんこの仕組みができてしまうと、さまざまな刺激によって、痛みはますます増大していきます」

治療のポイントは、この痛みの悪循環を断ち切ること。大きな原因と考えられ、ストレスに深く関与する顎関節症の治療を優先することだという。

菅院長は、現在、熊本大学大学院生命科学研究部の友田明美准教授らと、脳科学・口腔科学的に線維筋痛症のメカニズムを解明し、治療する共同研究を進めている。

線維筋痛症の患者さんは、さまざまな診療科を回ったあげく、不安と薬まみれになって、へとへとになって来られます。この病気には、縦割り医療ではなく、各科が連携して治療に当たるような仕組みづくりも必要です」
                                    
                                           (坂本収典)

(管理人注:)
上記の記事のように、今後は、歯科領域と、脳科学領域の研究者の方々の共同研究が重要になるように思われます。



参考

http://qq.kumanichi.com/medical/2010/06/post-1310.php
(熊本日日新聞社 6月4日朝刊記事)

http://www.sugashika.com/top.html
(スガ歯科医院HP)

http://www.asahi.com/edu/kosodate/news/SEB200810230015.html
(朝日新聞記事、熊本大学大学院生命科学研究部・友田明美准教授の研究)

4.患者から見た「線維筋痛症」と「顎関節症」の関係

 T.「線維筋痛症」である私と「顎関節症」
 U.重症の顎関節症について
 V.回復を心がけるときの、心の持ち方(管理人の例)


線維筋痛症の患者さんは、顎関節には異常を感じない方も多く、ほとんどの方が、顎関節症についてはあまり知らないと思います。
ですが、顎関節症が悪化してくると、壮絶な痛みを感じたり、深刻な状態になることもままあるようです。
また、悪化した顎関節症は、悪化した線維筋痛症と、さまざまな症状が似ています。
線維筋痛症の患者さんが悪化した顎関節症について知ることも、参考の一つになるかもしれないので、以下に、一時は重症だった線維筋痛症患者である私から見て、二つの疾患の類似していると感じる点や、なぜ線維筋痛症患者である私が、咀嚼筋の一つである翼突筋を治療することで非常に回復したのか、感じる点などを以下に記します。


T.「線維筋痛症」である私と「顎関節症」

管理人である私自身は、歴とした線維筋痛症です。
2001年4月にこれを発症し、2002年3月に、国立病院機構東京医療センター内科医長、リウマチ内科の西海医師により線維筋痛症の診断を受けており、西海医師から、この疾患名での診断書ももらっています。
西海医師は、日本ではまだ誰も線維筋痛症に注目していないころにこの疾患に関する論文を発表した、線維筋痛症研究では、日本で先進的な存在の医師です。医歯薬出版発行の「線維筋痛症とたたかう」にも、最初に西海医師が論文を発表したいきさつが紹介されています。

私の場合、線維筋痛症を発症した段階では、顎関節の痛みはゼロでした。また今に至るまで、ほかの多くの箇所に発生した凄まじい痛みに比べれば、顎関節の痛みはゼロに等しい感じで推移しています。

確かに、発症の4年前から「口が開けにくい、開けるときに音がする」という顎関節症特有の症状はありましたが、しかし治療を要するほどの痛みは一度も感じたことがありませんでした。
一方、線維筋痛症のほうは、フルタイムの仕事を続けていたある日、突発的に左の腰関節に激痛が走り、まったく歩けなくなるという形で発症しました。
そのとき非常に激しい痛みを感じたのは左腰部だけでしたが、やがて時間が経つにつれ、一カ所だけだった痛みは、右腰部、背中、肩胛骨部とはい上がってきて、さらに肩、首、腕、指などにまで広がってきました。

私の場合はそういう経緯を辿っていて、顎関節には一度も、これといった痛みを感じたことがなかったので、「翼突筋除痛療法」、つまりものを噛む咀嚼筋の一つである翼突筋への治療のみで、身体全体に渡る激しい痛みや、めまい、疲労感、重量感、発熱などの症状が次第に回復してきたとき、なぜこの治療で、それらの症状が回復するかがまるで理解できずに、驚愕しました。

最初に感じた腰部の痛みは、どうみても、その部分に何かしらの異常が起こっているとしか思えないような、外科的な痛みでした。ですから、そこから遠く離れた、一見、何の関係もなさそうな顎の咀嚼筋である翼突筋を治療することで、それらの症状がよくなるとは、最初は、とても期待することが出来ませんでした。

私のように、ある日突然、腰などの特定部に、外科的な痛みが襲ってきた場合、線維筋痛症と診断される前に、ヘルニアなどの外科的手術がいるような疾患と誤診されてしまう可能性を、患者としては感じます。
患者自身が、その部分に何かしらの異常が発生したとしか思えないような痛みを感じる場合があるので、そういう訴えを聞いた医療側が、その訴えをもとに、その箇所に何かしらの問題が発生しているという診断をしてしまう可能性もあるだろうと思います。
しかし、もしそこで誤診が発生して外科的手術が行われた場合、痛み入力という中枢感作のメカニズムを考えると、その手術そのものが、線維筋痛症の悪化につながりかねない場合もあるような気がします。

私のように、腰部の局部的な激痛から始まった痛みが、翼突筋という、そこから遠く離れた箇所への治療で非常によくなった理由、それへの理解は、中枢感作というメカニズムを考えないと、難しいのではないかと思います。


以下は、HP「線維筋痛症の概念」より

身体には異常なことがなにも起きていないのに、患者が激しい痛みを感じるのは、痛みの中枢に至るまでの痛みの伝達経路のどこかに、異常が起きているからと考えられます。
これはつまり、人間の中脳部にある痛みを伝達するときの感度を調整する機能が、うまく働かないということになります。
なぜ、この感度調節機能がうまく働かないで、いわば暴走してしまうのか、なぜ、神経経路の中に痛み信号が多量に流され続け、患者の身体に耐え難い痛みが起こるのかについては、いまのところ原因は不明とされています。
(この、「全身に耐え難い痛みが起こる」つまり、「わずかな刺激でもそれが脳で増幅されて全身に供給され、しかもそれが頑固に長く続く」という現象は、「中枢感作」のメカニズムを考えないと、理解が難しい気がします。)
しかし、その原因として、人体のどこかに、いわば「原発病巣」があって、その場所から慢性的に、痛み中枢への信号が流れ続け、患者の身体に耐えがたい痛みが起こっているという可能性が指摘されています。

私が回復した翼突筋除痛療法は、上記の「原発病巣」に着目し、この原発病巣は「外側翼突筋」であるという着目に基づいて編み出された治療法だと思います。
この治療法を、おおまかに例えると、以下のようにも言えるかと思います。

たとえば、音量が最大になったままの状態で、壊れてしまったラジオがあるとします。ラジオそのものの修理は、なかなか難しいですが、ラジオに電力を供給している電源を抜けば、大音量で音を鳴らし続けるラジオの音を止めることができます。
この場合の「ラジオ」は、痛み信号を全身に流し続ける「脳」で、そのラジオ(脳)に電力(痛み信号)が流れるのをストップさせれば、痛みは止まるということになります。
つまり、ラジオ(脳)に電力(痛み信号)を流し続ける電源(外側翼突筋)を修理し、ラジオに電力を供給するのをストップする、それによって大音響の音(痛み)を止める、そういった治療とたとえることができるのではないかと思います。

なぜ、腰部に外科的な激痛が生じて、そこから全身に痛みが拡大した患者が、翼突筋一カ所を治療するだけで、症状全体が非常に回復したのかについて、論理的には、上記のようなメカニズムを抜きには、説明がつかないように感じます。

また、私自身は、1年前に歯科的アプローチによる治療が修了し、その後は数ヶ月に一度、医師に体の状態を診てもらいながら、同時に歯のメンテナンスをして、体の快復を心がけている状態だと思います。
そして、治療が終了した1年前に比べて、明らかに状態は快復しています。
治療開始前は、激しい痛みが、まるで鉄の爪のように体じゅうに深く食い込み、もがけばもがくほど、さらに食い込んでくる感じでしたが、治療を始めてから、その鉄の爪が少しずつゆるみ、それとともに痛みが楽になり、いろいろなことが出来るようになってきた感じです。
だいぶ「鉄の爪」がゆるみ、治療開始前に比べて、相当楽になったと思えるころに、治療を終了しました。

そのときは、確かによくはなったのですが、まだ「鉄の爪に捕らえられている」感じは残っていました。それが治療終了後半年くらいから、「鉄の爪」そのものが壊れかかっているという感じがし始めました。
今の痛みは、爪の残骸のようなものが残っていて、それによる痛みという感じです。

具体的に言うと、中枢感作特有の、「少しでもやりすぎると必ずしっぺ返しが来る」メカニズムが崩壊しかかっているというか、ある作業をやりすぎて痛みが発生しても、その痛みの増幅があまりない感じです。また、私の場合、かならず痛み入力につながるパソコン作業も、作業開始から大きな痛みが発生するまでの時間が、明らかに長くなっています。
また、治療開始前は、夜中に痛みで目が覚める回数も数え切れず、一晩じゅう寝たり起きたりしている感じでしたが、今は、目が覚めるのは多くて一晩に1回、散歩などで体が疲れているときは、8時間以上ノンストップで眠れます。それだけ、明らかに痛みが減っています。

この感じは、「健康体」だったときの感じを思わせます。私の場合は若い方に比べて年齢も上なので、完治は難しいかもしれませんが、明らかに、治療終了直後より、軸足は健康体に移っている感じです。

この治療法は薬剤をほとんど使いませんし、治療が終わってからも、痛み止めや湿布薬を始め、薬はまったく使っていませんが、それでも体は快復しつつあります。

この経過を上記の説明と突き合わせ、また患者としての実感を合わせて言うと、以下のような感じです。

翼突筋除痛療法で翼突筋を治療したことによって、ラジオ(脳)へ送られていた電力(痛み信号)が減り、体にそなわっていた自然治癒への力の働きが妨げられなくなり、そこで、体の持つ自然治癒力が、もともと持っていた力を発揮し始め、体全体が快復してきているという印象です。

線維筋痛症の患者さんには、私のように、翼突筋や顎関節からは遠い箇所にある、腰や背中、足などに痛みが出る一方で、顎関節には異常は感じない方も相当おられますので、臨床的には効果が出ているこの治療法について、その効果が生理学的、科学的に証明されれば、患者さんにとっては、大きな恩恵になると思います。

U.重症の顎関節症について

上記のように、私自身には顎関節の痛みは非常に少なく、顎関節症よりも、自分は線維筋痛症という自覚の方が強くあります。
重症の顎関節症については、重症の患者さんが、さまざまに出た重篤な症状や、闘病の記録を出版された本があるので、それを参考にしたいと思います。

参考図書1
「歯で殺されないために」
副題:全身を狂わし人生の屋台骨まで狂わす顎関節症闘病記
著:岬 奈美

1996年9月発行
発行:株式会社JDC

この本は、重度の顎関節症患者さん自らが執筆しています。この方の発症の経過、出現したさまざまな症状は、およそ下記のような感じだったということです。
(「前書き」、「顎関節症(関節円板の脱落)の経緯」などから引用)

「歯を一本毀損した原因で、下歯全体に人口歯を載せられ、かみ合わないでいるうちに、首に、肩に症状が始まる。ひどい時は、一日中、全身がまるで陣痛のような苦しみに襲われ、首の痛みと不安定は、頭の重さを支えていられなかった。・・・最初は正体が分かりにくく、症状がひどく出現したときは、すでに全身のバランスは崩れ、・・下手をすれば顎の機能が正常に働かず、一生、首や肩、手、足にまで痛みが残存する。」

具体的な症状としては、以下のようなものがあったそうです。

・両手、両足に痛みが走る。
・肩、膝、足首関節に音がする。
・肛門が下がる、子宮が下がる、腰が痛い。
・両乳房の脇の筋が痛い。
・背骨、肩胛骨に痛み
・左手、右足くるぶし付近に内出血
・全身が支えていられなくなる。すぐに立ち上がって歩けない。等々

                
*この方に出たさまざまな症状は、線維筋痛症患者である私から見て、線維筋痛症そっくりというか、線維筋痛症そのものだろうという感じがします。

この症例を紹介している「あなたの歯医者さんは大丈夫か・歯科医療ミスの恐るべき実態」の著者である油井香代子さんと、出版元である双葉社の了解をいただきましたので、痛みが出た箇所を示す身体図を下記に掲載します。
この図を見ると、「かみ合わせによって全体のバランスが崩れた」というものではなく、明らかに、身体の広範囲に渡って激しい痛みが発生していることがわかります。

「歯で殺されないために」(全身を狂わし人生の屋台骨まで狂わす顎関節症闘病記)岬奈美さんの例



*比較のために、線維筋痛症の診断基準となる「圧痛点」を下記に示します。管理人である私自身は、すべての圧痛点で「陽性」、つまり、下記の点のどこをわずかに押しても、強い痛みが生じる状態でした。

(記事の続き)
重度の顎関節症が、健康な人をどれだけ深刻な事態に突き落とすかについては、著者が記した印象的な一文があります。

「顎で病む 私の体は震源地 人を殺すにゃ刃物はいらぬ 顎をこわせば命取り」

このような顎関節症患者さんの例とか、咀嚼筋の一つである翼突筋への治療で回復した、線維筋痛症患者である私自身の症例をみると、顎関節症が非常に悪化すると、線維筋痛症へ移行してしまう場合があるというのは、確かにそうのではないかという気がします。
いずれにしろ、詳しい研究が待たれるところです。

*また、この本の「前書き」には、以下のような記述があります。

「(顎関節症が悪化して)全身のバランスが崩れ、それをとりもどすにも、直す医者は一握り、完全に治癒するのは神業と聞きます。」
「(悪化した顎関節症は)、医者からは「治った例を知らない、治らない」と言われました。・・」

:この記述は、私が回復した「翼突筋除痛療法」が、非常に難度の高い治療であることと符合する点を感じますし、また、「線維筋痛症」も同じように「治らない」といわれていることと、似ている部分を感じます。

また、本文中に、線維筋痛症患者としては興味深い記事があります。

(朝日新聞 平成3年1月31日付け記事)

「*明海大学・前原潔先生の発表
犬三匹の歯の片側を削って、約3ミリ狂わせたら、犬は数ヶ月で後ろ足が弱り、二匹は骨盤がねじれて後ろ足が内側に曲がった。また、正しく座れなくなり、一匹は、体を斜めにして歩くようになった。自律神経障害の症状も見られたという。その後、削った歯に冠をかぶせてかみ合わせを戻したら、数日で回復が見られるようになった」

(毎日新聞 昭和62年9月21日記事)

「小林義典教授の発表
厚さ0.1ミリの異物を歯にはさみ、人工的に噛み合わせを狂わせ、生態を調べた。睡眠中も小型無線を発して追跡した結果、ものを噛む「咀嚼系」の筋肉の緊張、神経機構のアンバランス、顎の位置の狂いが起こった。自律神経系の機能にも大きな影響が出た。
・・・背中が痛い、首が痛いと医者に行き、更年期障害とされるようなケースの中に、歯の噛み合わせの改善で治るものも多い」

次に、別の本に書かれている患者さんの例をみてみます。著者の了解をいただきましたので、その一部を引用します。

参考図書2.
「あなたの歯医者さんは大丈夫か・歯科医療ミスの恐るべき実態」
著:油井香代子
(著者略歴:明治大学大学院修士課程修了。著書に「医療事故」「医療事故防止のためのリスクマネジメント」など)

発行:双葉社
2001年8月発行

この本に出てくる、非常に深刻な状態の顎関節症患者さんの症例も、線維筋痛症の症状と、よく似ている点が多いです。

*ある顎関節症の患者さんのコメント
「自律神経失調症で体調が悪化し、仕事も外出もできない状態なのに、周囲にはわかってもらえない。時には精神的な病だと言われ、病院に行くと各科をたらい回しにされた。あげく、最後は精神科に行くように言われた」

*著者のコメント
孤立感と焦燥感で精神的に追いつめられるケースも多い。

・これらのコメントは、線維筋痛症の患者さんの悩みと共通する部分が多いと感じます。


上記のように、重症の線維筋痛症患者だった私から見て、重症になった顎関節症患者さんの症状は、多くの点で類似点を感じます。

なぜ、かみ合わせを変えただけで、身体の各部位にはとくべつ損傷があったわけでもないのに、広範囲に渡って激しい痛みが発生するのかについては、今後の研究が待たれるところだと思います。

海外では、両者の関係に関する論文も数多く出ているので(このページの「顎関節症と線維筋痛症の関連を裏付ける海外の論拠」参照)、このあたりの研究が日本でも進めば、線維筋痛症の治療法も、さらに進展していくのではないでしょうか。

*また、「かみ合わせの変化」と「痛みの発生」の因果関係については、興味深い話があります。

元オリンピック選手で参議院議員をしている橋本聖子さんが、現役時代に激しい練習をしていたことは有名ですが、橋本さんは練習中に、練習のきつさに負けるものかと歯を食いしばり、その圧力で、次々に歯がぼろっと欠けてしまい、現役時代にすべての歯を失っているそうです。現在の橋本さんは、すべて義歯だという新聞記事を読んだことがあります。
橋本さんが人工の歯を入れる過程で、かみ合わせがまったく変化しなかったわけはないと思いますが、しかしながら橋本さんは、線維筋痛症を発症していません。

その一方で、私は、歯の治療はまったくしておらず、したがって、かみ合わせもほとんど変化していないはずの線維筋痛症の患者さんにお会いしたことがあります。
その患者さんや私自身を含め、多くの患者さんは、共通の経験を持っています。発症時に、身近な人の介護をしていたという経験です。

それも、ほかにも介護の手があったにもかかわらず、よんどころない事情で、大変な介護を一人で背負わなければならなかったなど、辛い、あるいは理不尽な思いを一人で抱え込むような経験をされている患者さんがかなりおられます。

こういう事情を考えてみると、たとえば橋本聖子さんのように、辛い練習を乗り越えた未来には、オリンピック出場など輝かしい未来や目標、夢が待っているという状況と、一方で、たった一人で介護を背負わされるなど理不尽な状況に追い込まれ、しかしその苦しさをうち明ける相手もなく、不安や哀しみ、怒りや悔しさを胸にしまい込んで耐える状況では、脳内環境に、大きな差があるのかもしれません。

ただし、線維筋痛症を発症してしまったあとでは、歯科治療で悪化することはあり得ると思います。発症後は、歯を大きく削るなど、かみ合わせを大きく変化させる治療は避けた方がいいのではないかと思います。


V.回復を心がけるときの、心の持ち方(管理人の例)

私が回復した翼突筋除痛療法も、線維筋痛症の患者さんが、百発百中で回復するわけではありません。なかには、回復が難しかった患者さんもおられると思います。
なぜ回復が難しい場合があるのか、患者として原因を推測すると、以下のようなことが考えられるかもしれません。しかしこれは、あくまで管理人が一患者として感じたことなので、参考の一つにしていただければと思います。

私は、上記のように、線維筋痛症を発症した当時、家族がガンを発症しており、連日、フルタイムの仕事をこなしながら、仕事帰りに毎日、家族が入院する癌センターに通っていました。

仕事のある日もない日も、連続して20日ほど病院に通った日のこと、前日まではどこといって痛みがなかった体に、その日の夕方から左腰関節部の痛みが始まり、それが次第に強くなり、夜には激痛になり、それが一晩中続き、翌日の朝には、痛みのあまり足が前に出ず、松葉杖なしでは歩けなくなっていました。

「管理人紹介」でも書いたように、私はそれまで長い間、仕事などで非常に忙しい毎日を送っていて、ストレスや疲労のたまる日常生活を続けていました。
上記のような発症経過を考えると、私の場合、長いあいだ、翼突筋からの痛み入力をなんとか持ちこたえていた脳が、ある日、長期に渡って蓄積したストレスや過労によって「へたり」、まるで堤防が切れるように決壊し、そこからどっと痛み信号が脳に流れ込み、線維筋痛症を発症したという感じです。
線維筋痛症患者さんには、たしかに歯の状態がよくない方が多いですし、歯科矯正をした方も確かに多いです。
しかし、私の場合で考えてみると、血縁関係のある家族の中では、私はもっとも歯の状態がよかったのですが、それでも線維筋痛症を発症し、それも重症になりました。

参考までに私の歯の状態は、右上奥歯が二本連続して欠損していますが、歯科矯正・インプラント手術はしていません。
私の父は60歳代ですべての歯を失っており、総入れ歯です。母も、欠損している歯は私よりも多いです。弟も欠損している歯があるにもかかわらず、何十年も放りっぱなしです。それにもかかわらず、家族の中で、私一人が重症の線維筋痛症になっています。これには、私個人の人生上でのストレスや疲労が大きく関わっているのではないかと思います。

上記のように、もし多くの線維筋痛症患者の方が、長年のあいだに蓄積されたストレスや過労で、脳の痛み防御機能のようなものがへたり、痛み入力がされやすくなっているとすれば、治療中・療養中は、脳への痛み入力を少しでも防ぐためにも、ストレスや苦しい思いをなるべく減らし、楽しい毎日を送る方が、脳に優しいのではないかと思います。

ストレスや過労でへたった脳に、ストレスや心配による痛み入力を減らすという意味では、「一日も早く完全な体に戻す」ことに意識を集中して、その目標に届かない自分を責めるという意識の持ち方よりも、目標とする「完全な自分」と現在の「不完全な自分」を日々比べず、まいにちの生活のなかで、できるだけ「楽しいこと」「おもしろいこと」を発掘し、「楽しがる」「おもしろがる」、あるいは「感動する」とか、心がわくわくする、楽しい、おもしろいと思うことにできるだけ意識を向けて、「毎日を楽しく過ごす」ほうが、脳には優しい状態で療養できるのではないかという気がします。

「日経ヘルスプルミエ・2009年11月号」には、以下のような記事が載っています。

「腰痛・肩こり痛を消す」特集 61ページ
「痛みの原因は、腰ではなく、実際に痛みを知覚する脳にあることが分かってきた」

「人は、体のどこかで痛みを感じると、それが神経を通じて脳に伝わり、腹側被蓋野(ふくそくひがいや)という場所からある種の脳内物質(フェージックドーパミンという)がたくさん出てくる。すると、快楽物質(βエンドルフィンなど)が脳の中で作り出され、痛みが押さえられる。ところが「ストレスにさらされていたり、抑うつ状態にあると、脳内でフェージックドーパミンの分泌が少なくなり、痛みを押さえるシステムがうまく働かなくなる」(福岡県立医科大学医学部、紺野愼一教授)

できるだけ効率的に療養し、回復を心がけるには、こういった記事も参考になるかもしれません。

また回復は、体の各部分によって、むらがあります。
どこの部分がいちばん早く回復するか、その一方で、どの部分の回復が遅れるかは、人それぞれだと思います。

翼突筋除痛療法での回復の経過は、ほかの病気での治療のように、ある一定の治療によって体全体がだんだんと元通りになるというよりも、体のそれぞれの部分が、それぞれの速度でゆっくりと回復するのを、辛抱強く待つという感じです。
もしかすると、これは、線維筋痛症が、体の各筋肉に症状が現れるということと関係しているのかも知れません。
私の場合は、重度の身体障害者といった状態(「医療機関、および患者さんの介護をする方へ」「管理人の痛み」を参照)から、もっともダメージの少なかった下肢が動くようになるのが早く、もともと歩くのが好きということもあり、治療開始後、1年経つころには、歩くときの痛みはかなり減っていました。

しかし、上肢関連部分の回復は遅れ、治療開始後3年経つ今も、瀬戸物など、重さのある食器は痛み入力につながるので、食器はプラスチックを使っています。また、ハンドルを回す操作は、弱い上腕部に響くので、車の運転はまだできません。また、限度を超える重さの物を持てば、症状に響きます。

それでも治療前の重度身体障害者状態からは、見違えるような快復を見せています。治療前には、新聞もめくれず、ハードカバーの本も持ち上げられませんでした。治療前の私と治療後の私の両方を知る人は、「常軌を逸した」くらいの回復と形容します。

できれば、快復を焦らず、中枢感作のメカニズムをよく理解し、体の中の、弱い部分がどこかを理解し、そこにはなるべく負荷をかけずに、痛み入力を避けながら、体の自然治癒力を待つほうが、結果としては、快復が早いような気がします。
気持ちの持ち方としては、発症前の完全な体にこだわり、一刻も早くそれに戻そうという気持ちより、何もできないというゼロベースを設定して、その状態を自分に許し、そこから、体の各部分の快復をどのくらい積み上げられるか、それを楽しみにするといった気持ちの切り替えをしたほうが、体には優しいですし、快復を焦ることによる「ストレス」をさけられ、ストレスによる刺激入力を避けられるのではないかという気がします。

参考までに、「歯で殺されないために」の著者である岬奈美さんが、重度の顎関節症患者さんへのアドバイスとして、いくつかのことを勧めています。線維筋痛症患者さんにも参考になるかも知れないので、一部を以下に引用します。

・長期の治療を必要とするので、痛い部所をあまり使わず楽しめることを考える。
・体の痛い部分は、無理に使わない。
・苦しい分のエネルギーを、倍のエネルギーに跳ね返すような開き直りの精神を持つ。
・その時々の症状を、くわしくメモして医師に伝える。
・時間の許す限り体を横たえること。

私の場合も、線維筋痛症を発症する前は、定期的にトレーニングジムに通い、腹筋50回、腕立て伏せ20回とか、かなりのトレーニングをすることができましたが、いまの現状を以前の状態とは比較せずに、無理しないで、治療の結果、できるようになったことを喜ぶほうがいい感じです。

翼突筋除痛療法で回復が難しいケースの、もう一つの可能性は、原発病巣が翼突筋のほかにもあるのかどうかという問題です。
(以下は、推論とお断りしておきます。)

顎関節と脳は、とても近い位置にあります。そのなかでも線維筋痛症の原発病巣と目される「外側翼突筋」は、脳がある場所のすぐ下に位置しています。(「自分で簡単にできる診断方法」の「外側翼突筋のある場所」参照)
外側翼突筋は、脳に非常に近く、そこから脳の痛み中枢へ、痛み信号が送られやすいという仮説は、非常にわかりやすい感じがします。
しかし、このほかにも、脳に多量の痛み信号を送る元、いわゆる原発病巣があるのかないのか、このほかには一つもないという結論に至った研究も、まだないような気がします。

仮に、ほかにも痛み信号を多量に送る元があると仮定した場合、翼突筋からの治療のみでは、限界がある場合があるのかもしれません。

そういう場合に、患者側ができることとしては、上記の岬奈美さんのアドバイスのように、「その時々の症状を、くわしくメモして医師に伝える」というではないかという気がします。
たとえば私の場合は、できるだけ下記のような説明をこころがけていました。

・前回の治療と比較して、痛みは楽になったか、悪化したか、変わらないかといった症状の変化。
・どの箇所がどんなふうに痛いのか、何をすると痛いのか、何をすると楽になるのか。
・何をすると、痛みはどういうふうに変化するか。
・痛み以外の、めまい、目が見えにくい、疲労感、アレルギー、発熱、筋力の低下などの症状。治療による、それぞれの症状の変化。

自分の症状を、できるだけ客観的に、具体的に、わかりやすく説明することが、事態を打開する手がかりになる可能性も、ゼロではないと思います。

もし仮に、ほかに原発病巣があったとしても、翼突筋への治療がどれだけ大きく症状に影響するか、身をもって体験している患者としては、もし翼突筋への治療がうまくいった場合には、かなりの回復ができる可能性もあるかもしれないと思います。
原発病巣の研究も、進展が望まれると思います。


(この記事の文責は、管理人にあります)


参考および引用

「歯で殺されないために」
副題:全身を狂わし人生の屋台骨まで狂わす顎関節症闘病記
著:岬 奈美
1996年9月発行
発行:株式会社JDC

「あなたの歯医者さんは大丈夫か・歯科医療ミスの恐るべき実態」
著:油井香代子
(著者略歴:明治大学大学院修士課程修了。著書に「医療事故」「医療事故防止のためのリスクマネジメント」など)
2001年8月発行
発行:双葉社

5.参考資料

 T.翼突筋除痛療法による、顎関節症患者の治療・快癒例

 U.顎関節症と線維筋痛症の関連を裏付ける、海外の論拠
  A.ワシントン大学のRhodusなどの報告
  B.ミシガン大学のKorszunたちの報告
  C.アメリカリウマチセンター・ウォルフ教授(線維筋痛症研究者)の研究

 V.翼突筋除痛療法を行っている医師による学会発表

 *参考 咬合治療について


T.翼突筋除痛療法による、顎関節症患者の治療・快癒例
  (患者さんへ、治療にあたる方へ)

*下記の通り、この患者さんの症状を見ると、顎関節症のみならず、線維筋痛症にみられるさまざまな症状を合併しているのが分かります。
*この患者さんは、治療開始後、1ヶ月で線維筋痛症の圧痛点が13箇所から1箇所に減りました。
*患者さんが記入した「痛みに関するアンケート」をみると、施術前と施術後を比べてみて、この療法の著しい即効性が見てとれます。


治療を行ったのは24歳女性 A子さん

・症状:
頭痛(週に五日間)、顎、首、肩、腰、手足の慢性疼痛、手足の冷え、慢性の疲労感(月に1日は動けない日がある)、乗り物酔いが激しい、集中力が低下する(人の会話は聞こえているが意味が分かるまでに時間がかかるなど)、手足に力が入らない、荷物が持てない、身体がむくむ。
・そのほか:
小学生のころから身体の痛みと倦怠感があった。

初診時
圧痛点(13箇所/19)

治療開始して1ヶ月後
圧痛点(1箇所/19)
*ほぼ健康な状態に回復した。頭痛、身体の痛み、手足の痺れ、むくみはなくなった。身体が軽くなって、激しかった生理痛がほとんど消えた。

治療開始して6ヶ月後
*痛みはなくなった。しかし、10分ほど乗り物に乗ると、乗り物酔いが出る。

治療開始して7ヶ月後
*重い疲労感が消え、4時間連続して歩けた。しかし、翌日には疲れが取れた。乗り物酔いはほとんどなくなった。

同じ患者さんによる「痛みに関するアンケート(治療の術前と術後)」
*施術前と術後を比べて、この治療法の著しい即効性を推察することができます。

U.顎関節症と線維筋痛症の関連を裏付ける、海外の論拠
  (治療にあたる方へ)


A.ワシントン大学のRhodusなどの報告によれば、調査した線維筋痛症患者のうち、67.6%に顎関節症の症状が見られたそうです。これは、線維筋痛症と顎関節症が、非常に合併しやすい疾患であることを裏付けているように思われます。また線維筋痛症には、舌痛症や口腔乾燥症など、口腔に関係した症状が多く現れることも報告されています。 


B.ミシガン大学のKorszunたちは、線維筋痛症と慢性疲労症候群のふたつの患者群と、両方を合併している患者さんがたの調査をした結果、全患者のうちの42%が、それぞれの疾患を発症する前に「顎関節症」の診断をされていたと発表しています。

C.線維筋痛症の指導的研究者であるアメリカリウマチセンターのウォルフ教授は、2005年に「リウマチ性の痛みと顎の痛み」について、22720人の患者を対象に調査しました。患者の内訳は、17683人が慢性関節リウマチ患者、4011人が骨関節炎患者、1026人が線維筋痛症患者でした。
これらの患者を、顎に痛みのある患者、および痛みのない患者の2グループに分け、それぞれの患者の全身疼痛の程度、QOL(生活の質)や、疲労の程度等について調査しました。その結果として、顎に痛みのあるグループは、痛みのないグループに比べ、いずれの症状も重いことが判明しました。(下記の図参照)

*(図の説明)
棒グラフの数字:横軸が、痛む箇所数、縦軸が、全患者のうちのパーセンテージです。
左側:顎に痛みのないグループ、右側:顎に痛みのあるグループです。
左側のグループは、痛みのある箇所は比較的少なく、右側のグループは、多くの患者が身体のたくさんの部位に痛みがあることが分かります。

V.翼突筋除痛療法を行っている医師による学会発表
  (治療にあたる方へ)

*学会活動

2006年11月18日

第16回日本全身咬合学会学術大会(千葉)で「線維筋痛症と咬合関連症候群の関係〜線維筋痛症の咬合治療」を発表しました。



○2007年4月22日

第5回咬合機能研究会講演会で、「全身症状を伴う顎関節症のメカニズムと治療〜病態生理学的エビデンスに基づく治療法 」を発表しました。

(上記抄録)
 
現在、日本では、顎関節症は「顎関節や咀嚼筋の疼痛、関節雑音、開口障害ないし顎運動異常を主要症状とする慢性疾患群の総括的診断名」と定義されている。

しかし、臨床においては、顎のみに症状が限定されている症例ばかりではなく、時として頭部、頚部、背部、下肢などの多くの部位の疼痛を伴う症例に遭遇する。

こういった症例では、スプリント、筋弛緩剤、消炎鎮痛剤などのTMD(顎関節症)の標準的な治療が奏効しないことが多く、また、顎から頚部、背部にいたる連続した領域の疼痛を訴えるなど、どの症状をTMD関連とすべきかの判断に迷う場面が多々ある。

一方、近年の整形外科領域の研究の進展により、筋骨格系の慢性疼痛の主要な原因が筋筋膜性の疼痛であることが明らかにされたが、TMD(顎関節症)の疼痛の主要なソースも、咀嚼筋群の筋筋膜痛であることが分かってきた。

また、ここ十年余りのリウマチ科領域の研究により、全身的慢性疼痛と抑うつ、筋力低下、睡眠障害などの多彩な症状を呈する原因不明の症候群である線維筋痛症に関する知識が、飛躍的に増大した。

その結果、線維筋痛症と筋筋膜痛症候群は近縁の疾患であり、共通の病態生理学的特徴を持つことが明らかにされた。これらの症候群ではテンダー/トリガーポイントと言う臨床症状を共有するばかりでなく、脊髄後根神経核細胞から大脳に至る疼痛伝達系の感受性に異常が生じていることが証明されている。

この病態生理学的異常は、Central sensitization(HPでは、「中枢感作」と訳しています)と呼ばれている。

この異常はTMD(顎関節症),筋筋膜痛症候群、線維筋痛症以外にも慢性疲労症候群、Restless Leg syndrome(むずむず足症候群)、緊張型頭痛、過敏性腸症候群、化学物質過敏症などの、従来は謎とされてきた症候群にも見出されている。

すなわち、TMD(顎関節症)は、単独の疾患ではなく、多彩な全身症状を伴う大きな症候群の一部であると考えることができる。
そこで私は、この視点からTMDの治療法を再構築した。その結果、従来難治性とされてきた全身的随伴症状を伴うTMDの治療に高い成功率を達成したので、それについて解説する。
(抄録終わり)

参考
http://www.k5.dion.ne.jp/~kinoukog/index.html(咬合機能研究会)



○2007年6月9日

第25回日本顎咬合学会学術大会(東京) で、「全身症状を伴う顎関節症の病態生理学的アプローチ」を発表しました。


○2009年10月11日

第1回線維筋痛症学会(大阪)で、「線維筋痛症患者における、外側翼突筋に対する疼痛抑制処理前後の電気刺激閾値の変化について」を発表しました。

(目的)
FM患者においては、・・・中枢の痛み感受性に病的変化が起きている者と考えられる。
筆者らが行っている外側翼突筋に対する局所療法が、どのような経路でFMの疼痛を抑制するかを調べるため、処置の前後でのWind upの変化を調べた。

(考察)
局所に対する処置によって、遠隔部位のFMの疼痛が抑制され、かつ電気刺激閾値が上昇したことは、末梢からの求心性信号が、中枢の痛み感受性に影響を与えたものと考えられ、末梢の異常がFMの原因になりうる可能性を示唆したものと考えられる。また、30分程度の短時間で処置の効果が現れた点から、FMにおいては中枢の機能的な痛み感受性の異常が起きているものと思われる。


○2010年6月13日

第28回日本顎咬合学会学術大会(東京) で、「全身的慢性疼痛を有する患者(含 線維筋痛症)への歯科的対応・咬合はいかにして全身疼痛を引き起こすか」を講演しました。



*研究論文

(2009年9月発刊)
日本臨床リウマチ学会(事務局 近畿大学医学部整形外科学教室)の学会誌「臨床リウマチ」第21巻3号に、翼突筋除痛療法に関する論文「電気的痛み定量計測器(Pain Vision)を用いて治療評価を行った線維筋痛症の症例」が掲載されました。

*参考
咬合治療について

*咬合治療とは、噛み合わせを治すことを目的とする歯科的治療です。顎関節症のための治療も咬合治療に含まれると思います。

(以下は、HPの「線維筋痛症に関する参考書の紹介の3.歯科治療でなぜ線維筋痛症が改善するのか」参照)
http://homepage3.nifty.com/fmsjoho/page010.html

(参考)
「歯科からの医療革命」:藤井佳朗著:2004年*現代書林出版

さまざまな咬合治療

この本の中で、著者である藤井歯科医師は、「咬合治療とひとことで言っても、歯科医によって治療法はさまざまですし、あらゆる理論があります。・・・いろいろなアプローチが存在するわけです。」と言っています。
ネットで検索してみると、確かにさまざまな歯科医師が、さまざまな治療を行っています。
現状では、線維筋痛症が回復する咬合治療について、患者がいつでもどこでも受けられる標準治療といえるものはないため、どのような咬合治療なら線維筋痛症の回復に結びつくのか、患者が自分自身で情報を集め、自分で確かめることが重要だと思います。

健康なかみ合わせは、虫歯、歯周病や、不定切な歯科治療などで、わりに簡単に崩れてしまうようです。
でも、一度、崩れた咬合が体の不調を引き起こすようになると、その噛み合わせを元の健康なかみ合わせに戻すのは、上記のように、非常に難しい技術を要するといわれます。

線維筋痛症は、脳中枢が過敏になる症候群

藤井医師のように、「噛みあわせと全身の関係、脳との関係」をよく知っている歯科医師は、例外なく、咬合(かみ合わせ)のミクロン単位の不調が、さまざまな症状に大きく影響するといいます。

これは、歯の根元にある歯根膜という高性能のセンサーが、微細な歯のゆがみを正確に感知することと連動しているのではないかと思います。

私の場合も、わずかな歯のぐらつき、歯茎の腫れなどがあると、昔なつかしいFMの諸症状が、そろって現れます。(めまい、背中、首、肩、腕、腰の痛み、過敏性腸症候群、重量感と疲労感、膀胱炎等)

崩れてしまったかみ合わせを健康ば噛み合わせに戻す場合、それでは、医師が何を手掛かりにして正しい噛み合わせを知るか、(言い換えると、「どのような手段で健康な下顎位置を知るか」)、これが本当に難しいところで、医師それぞれが試行錯誤しているために、「咬合治療とひとことで言っても、歯科医によって治療法はさまざまですし、あらゆる理論があります」ということになるのだろうと思います。

とくに、線維筋痛症は脳中枢が過敏になる症候群です。

熊本のスガ歯科医院の治療によって、重症の線維筋痛症から回復した患者さんの一人は、下記のブログで、線維筋痛症患者の「歯は刃物」、歯の根元にある「歯根膜は患者にとって地雷原」と言っています。これは、咬合治療を受けた線維筋痛症患者の実感をすごくよく言い表していて、感心してしまいました。

カボチャさんのブログ
http://senikin.blog119.fc2.com/
(線維筋痛症を克服しました)

「歯は刃物」という通り、患者の歯をミクロン単位で削るとか、ちょっとした歯茎の腫れや歯のぐらつきで、FMの症状は激変することが多いです。この変化を、上記の患者さんは、「まるでジェットコースターに乗っているようだ」とも表現しています。
咬合治療で線維筋痛症の治療をしている歯科医師は、この恐ろしさを、よく知っていると思います。

このように考えると、咬合治療で線維筋痛症を回復させるには、やはり非常に高い技術が必要になることが分かると思います。まさしくミクロン単位(1000分の1ミリ)での咬合の差を、出来る限り正確に検知し、治療に反映させることが必要になります。
そういう中で、何人かの歯科医師が線維筋痛症患者を受け入れて、患者全員ではありませんが、かなり多くの患者さんが回復しています。
そういう事情のなかで、管理人が知っている範囲で、患者さんが回復している治療をいくつか紹介できればと思います。

翼突筋除痛療法

まず、私が治療を受けた翼突筋除痛療法ですが、患者が回復する咬合位置を見つけるために、FM患者のほとんどに現れるトリガーポイントの反射作用を応用します。
(下記のHPを参照)

http://homepage3.nifty.com/fmsjoho/page016.html
(「2−2 トリガーポイントブロック」)

また、トリガーポイントに関しては、
「線維筋痛症とそのほかの中枢性の疼痛症候群」
(Fibromyalgia & Other Central Pain Syndromes)
の第5章「慢性局部痛を含む慢性筋骨格痛における神経生物学」の中に、「トリガーポイントは線維筋痛症患者のほとんどに確認される」という記述があります。

この治療では、かみ合わせの変化に連動するトリガーポイントの変化や、全身姿勢の変化をみながら、健康なかみ合わせの位置を見つけていきます。
この治療が有効なのは、おそらく、全身に発生するトリガーポイントが、咬合の不調によって起こる体のねじれと連動しているからではないかと感じます。

治療のよいところ

これを受けて回復した患者として感じるこの方法のよさは、まず、患者の体に負担がかからないことです。
線維筋痛症が重度になると、全身に恐ろしいような痛みが発生しています。ですから、治療途中でさらに大きな痛みが発生すると、とても辛いことになります。
医師がトリガーポイントを触診したり、全身の姿勢を見たり、顎位置を触診するなどして検診しているあいだ、患者は医師の診断にまかせていればいいので、痛みを抱える患者は楽です。

また、この方法のいいところは、誤差が少ない感じがすることです。
もちろん、百発百中で毎回正しいかみ合わせを探り当てられるということはなく、医師は「はらはらしながらやっている」と言いますが、私の場合は、たとえ一回の治療で不調に傾くことはあっても、ずっとそのままということはなく、長い目で見れば、ほぼ順調に回復してきたと言えます。

一方、この治療の難しいと思う点は、トリガーポイントの触診の正確さは、医師の技量にかかっている部分が大きいことです。

私も医師に言われて、自分の指で腰部のトリガーポイントを触ってみましたが、治療前と後の違いを、自分ではまったく感じることができませんでした。
遠方に住む患者としては、この方法で治療ができる医師が自宅から通える範囲にいればなあと思いますが、トリガーポイントの変化を触診でつかむのは、相当の熟練が必要ではないかと感じます。普通、歯科医師は患者さんの体を触診することはありませんから、この治療技術をマスターするのは、かなり時間がかかるのではないかと思います。

また、医師の話では、トリガーポイントを使っての検診方法をつかむために、大学医学部の解剖学教室に通って、人体の全筋肉について詳しく学び、その後、臨床を繰り返し、現在のような検診方法をつかむまでに、かなり時間がかかったということです。
この方法を使って咬合治療をしている医師は、私の知る範囲では、他におられません。


O−リングテストを使った咬合治療

上記の本の著者、藤井歯科医師は、この方法を使って咬合治療をしています。

Oーリングテストそのものは、国内では知名度が低いですが、欧米では評価が確立しており、検査機器も必要なく費用もかからないため、北欧では医学部教育で必須にしている国もあります。

私は、この治療で、患者が絶対に回復することはないとは言えないと思います。
藤井医師の著書や、患者さんが作ったHPを見る限りでは、腰痛や頭痛、膝関節痛、アトピー、リウマチ、膠原病など、たくさんの病気が回復しています。これらの疾患の多くは線維筋痛症の症状と共通しています。

(参考)
藤井歯科医師が提唱する治療で、難治性疾患から治った患者さんが作ったHP

http://homepage1.nifty.com/kkmiya/UHL-ha/OMindex-01.html
(全身の噛み合わせ医療)

この方法が、FM患者には難しいかもしれないと思う点は、検査じたいが、もの凄い痛みが発生している患者さんの体に負担がかからないだろうかと感じる点です。

私も、じつは、このOーリングテストを家族と一緒にためしたことがあります。でも、このテストでは、輪を作った指に力を入れて、輪の形状を保たなければならないため、私の場合は一度のテストで、肩から腕、背中、腰までが痛くなり、その痛みが一週間ほど続きました。

FMという疾患は、脳に入力された刺激が、痛みそのほかの症状に転化されて増幅し、それが非常に長く続きます。
Oーリングテストは、咬合を見つけるために何度も繰り返し行わなければならず、それが患者の負担になるのではないかというのが心配な点です。私の場合は、トリガーポイントを使った検診の方が、はるかに楽でした。

ですが、私は一度、手の施しようがないほど重症になっており、そうではない患者さんに、これを使った治療が適合しないとは言い切れないと思います。


検診の正確性については、私が受けた治療では、百回を超える治療のうち、「今回はうまくいかずに痛みが発生した」と感じたのは、3回くらいでしたから、この方法を使った治療は正確性が高いと感じます。(3回とも、次回の治療では確実にリカバリーができました。)

ですが、この方法での検診は、上記のように技術的にとても難しいと思います。



スガ歯科医院での治療

上記の新聞記事で紹介されているスガ歯科医院でも、触診を使った方法で健康な顎位置を探り当てているようです。私はここの治療を受けていないので、詳しい説明はできませんが、記事にもある通り、回復している患者さんは相当数おられます。詳しくは、HPのリンク集を参照ください。



回復する治療を見つける手がかりは


上記のように、さまざまな咬合治療がありますが、その治療で回復する希望があるかどうか、手掛かりの一つは、重度のFM患者さんが目覚ましく回復しているという実績があるかどうかだと思います。
「回復している」というのは、「鎮痛剤を併用して痛みが落ち着いている、軽くなった」といったレベルではなく、薬をまったく使わずに、痛み、そのほかの重いめまい、疲労感、便秘や下痢などの胃腸障害、うつなどが、ほとんど消失しているということを意味します。

もうひとつは、診察や治療を行う過程で、医師が全身と噛み合わせの関係を見ているかどうかです。
噛み合わせが全身に及ぼす影響を熟知し、噛み合わせ治療が全身にどのような変化をもたらしているか、体への診察によって具体的につかめる医師でなければ、重症化したFMの治療は難しいのではないかと思います。

また咬合治療の際に、患者が非常に敏感な部分を触るのは、上記のとおりですから、この疾患のメカニズムを考えた場合、とくに治療の受けはじめには、患者の閾値=いきち(下記のHP参照)が、非常に不安定になっている場合が多いと思います。

http://homepage3.nifty.com/fmsjoho/page011.html#lbl07
7.患者が感じる感作と閾値(いきち)の関係


FM患者における閾値の問題については、今のところ、これに詳しい医療者が、日本にはほとんどいません。

歯科での治療は、とくに治療を受け始めた頃は、「治療を受けているのだから、すぐに動けるようになる」という考え方は取らず、症状悪化につながるような余計な刺激は入れないようにした方がいいように思います。

これは、FM患者が感じる痛みは、これまで常識だった「痛みを起こすメカニズム」と、違ったメカニズムで発生する痛みなので、従来の痛み治療と、違った注意が必要になるということだと思います。(下記のHP参照)

http://homepage3.nifty.com/fmsjoho/page011.html#11
9.「安静にする」と「静止する」の違い。認知行動療法について



望まれる治療の広まり

藤井歯科医師は、著書や医師を対象にした研修会を通じて、上記のOーリングテストを使った咬合治療を広めています。
線維筋痛症も、トリガーポイントに着目した咬合治療がもっと広がれば、薬剤治療が困難な患者さんなど、さらに多くの患者が救われるかもしれません。

HPの「Q&A」「リンク集」でも紹介しているように、医科医師や鍼治療師のなかには、トリガーポイントに着目して線維筋痛症の治療を行っている治療者がかなりおられます。

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