効果があった理学療法



 1.線維筋痛症のおさらい(治療に関係する箇所を復習します)
  (論文抜粋)
  (参考資料)

 2.管理人の治療前の状態(治療前の診断書)
 3.治療内容(概略)
  T.第一段階の治療
  U.第一段階で現れた効果
  V.第二段階の治療
  W.第二段階で現れた効果
 *補足
   治療前と後の、痛みの変化
   「中枢性過敏症候群」(「中枢感作」のページ参照)の特徴・・患者の脳は過敏になっている

1.線維筋痛症のおさらい(治療に関係する箇所を復習します)
 (論文抜粋)
 (参考資料)

*管理人である私自身は、この大脳指向型(BOOT)咬合療法によって、劇的に回復することができました。
しかしながら、最初に書いたように、この治療ができる医師は限られており、しかも、非常に手間のかかる治療法のために、一度に多くの患者を受け入れるのは難しいです。
ただし、この治療法には、線維筋痛症の発症や悪化、さらにはそこからの回復について、さまざまな示唆を含んでいると思われるので、内容について詳しく載せます。
ここで、いま一度、研究者の間でコンセンサスになっている線維筋痛症のメカニズムについて、復習をしたいと思います。

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線維筋痛症についての復習

線維筋痛症は、脳のなかの痛みを感じる感受性の部分が変化を起こし、身体の各部分には異常が起きていないにもかかわらず、患者自身が激しい痛みを感じる疾患です。身体には異常が起きていないのに、患者が激しい痛みを感じるのは、末梢にある痛みを感じる感覚受容器から、痛みの中枢に至るまでの痛みの伝達経路(つまり痛み信号の上り経路)のどこかに、異常が起きているからだと考えられています。
人間の脳は、大きく分けて大脳、中脳、小脳の三つがあります。そしてそのうちの中脳部に、痛みを伝達するときの感度を調整するべき機能の中枢が存在すると考えられています。

感度を調整するというのは、およそ次のようなことになります。痛みの信号が流れる伝達経路を「川」に例えるとします。その川を流れる水の量を調節する「水門」の機能を担っているのが、痛みの伝達感度の調整機能ということになります。
もし水門の口を締めれば、川(伝達経路)の中を流れる痛み信号の量は少なくなり、口を開ければ、川(伝達経路)を流れる痛み信号の量が増えるわけです。
その水門にあたる機能を担っているのが、痛みの伝達感度の調整をする中枢ということになります。そして、この中枢を担っているのが、中脳中心部にある中脳中心灰白質(PAG)だと考えられています。(中略)

さきほどの水門の例えに戻りますと、水門を閉める機能を持つのが、「下降性疼痛抑制系」開ける機能を持つのが「興奮性の系」ということになります。
(中略)
そして、この痛みの伝達感度の調整をする中枢、つまり、下降性疼痛抑制系は、「中枢感作」に深く関わっているものと考えられています。
そして、身体には異常なことがなにも起きていないのに、患者が激しい痛みを感じるのは、痛みの中枢に至るまでの痛みの伝達経路(つまり痛み信号の上り経路)のどこかに異常が起きていると考えられているのは以上に述べたとおりですが、つまりそれは、人間の中脳部にある、痛みを伝達するときの感度を調整するべき機能が、上手く働かないということになります。

なぜ、この感度調節機能がうまく働かないで、いわば暴走してしまい、神経経路の中に痛み信号が多量に流され続け、結果として患者の身体に耐え難い痛みが起こるのかについて、いまのところ原因は不明とされていますが、人体のどこかに、いわば「原発病巣」があって、その場所から慢性的に、痛み中枢への上りの信号が流れ続け、その結果として、患者の身体に耐えがたい痛みが起こっているという可能性が指摘されています。

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治療を行っている医師の論文抜粋

私が回復した大脳指向型(BOOT)咬合療法は、上記の説明にある「原発病巣」に着目し、この原発病巣は、「外側翼突筋」(下記イラストC,D参照)であるという着目に基づいて編み出された治療法です。以下は、この治療を行っている医師の論文からの抜粋です。

「私(医師)は、線維筋痛症の患者のほぼすべてに口腔顔面痛が認められるために、口腔領域にこの原発病巣が存在するのではないかとの考えた。
口腔顔面痛の最も頻度の高いソースは外側翼突筋であることは、筋筋膜痛症候群の発見者であるDr Simonsが指摘しており、多くに認められているが、外側翼突筋近傍に浸潤麻酔を行う処置により、線維筋痛症の症状が改善した。
そこで、外側翼突筋が線維筋痛症の原発病巣ではないかという考えに基づいて、大脳指向型(BOOT)咬合療法が考案された。」
(イラストC:咀嚼にかかわる筋肉)


(イラストD:咀嚼にかかわる筋肉、横顔)

外側翼突筋が、線維筋痛症の原発病巣であるという着眼についての参考資料


参考(1)
ケネディ元大統領の主治医だったトラベル博士は、下記の著書のなかで、この外側翼突筋について次のように紹介しています。
「Travell&Simons Myofascial Pain and Dysfunction The Trigger Point Manual」(トラベル博士&サイモン博士「筋筋膜症候群と反作用:トリガーポイントマニュアル) 」上巻:第11章。P379

(内容)
我々の臨床によると、外側翼突筋のトリガーポイントの痛みは、頭蓋(とうがい)および顎領域に感じる痛みの主要な原因である。

*上に掲げた論文にもあるように、筋筋膜痛症候群の発見者であるDr Simonsは、口腔顔面痛の最も頻度の高いソースは外側翼突筋と指摘しており、これは多くの臨床例で認められています。


参考(2)
外側翼突筋は、頭部の他の筋肉と同様に脳神経に支配されていて、外側翼突筋に分布する求心性線維(痛みの上り信号)の細胞体は、中脳にあるという特長がある。さらに、外側翼突筋は、全身の骨格筋のなかでただ一つ、筋紡錘がないという特徴を持っている。
注:筋紡錘:身体の多くの筋肉に存在し、ことに肩胛骨筋はこれに富む。内臓筋には存在しない。

*大脳指向型(BOOT)咬合療法を行っている医師によれば、外側翼突筋近傍に浸潤麻酔を行うと、線維筋痛症の症状は改善する。
なぜ、外側翼突筋近傍に浸潤麻酔を行うと線維筋痛症が改善するのか。外側翼突筋のみに、ほかの骨格筋には所在する筋紡錘が存在しない事実をこの臨床例と照合すると、興味深い点がある。

2.管理人の治療前の状態(治療前の診断書)

*治療開始前の管理人の診断書

1.圧痛点
・線維筋痛症の診断基準になる
圧痛点すべてに、軽度の圧迫で、痛みを認める。
(圧痛点18/18で陽性。)
つまり、圧痛点のどこをわずかに押しても、強い痛みが生じる状態でした。
(圧痛点については、下記の図2参照)
図2:線維筋痛症の診断基準になる圧痛点

2.具体的な症状
・初診時に漢方薬を処方したが、内服すると気分が悪くなる。パフォーマンスステージは、9でスタート。良いときで8でした。

・症状:著明な疲労、倦怠感、時々ある微熱、著明な脱力感、筋肉痛、労作後長く続く倦怠感、関節痛、頭痛、中途覚醒を伴う不眠、物忘れ、思考力集中力の低下が時々見られる。

・身の回りのことは、衣服の着脱に置いては自力で不可能であり、日常生活の大半のことは介助が必要である。日中の3の2以上は就床、労働は不可能な状態。外出するにしても車椅子で全面介助で通院するのが限度である。(T医大付属研究所、M医師による診断書)


以前使っていた車椅子。最悪のころは激痛のために、車椅子に座るのも30分が限度でした。

発症する前は、健康で活発だった

*ちなみに、線維筋痛症を発症する前の私は、非常な健康体でした。以下に私のスポーツ歴を記しますが、たぶん、普通の人よりも活発なタイプだったと思います。そうであっても、44歳のある日にこの疾患を発症して、その日から歩けなくなりました。
高校三年生 卓球で神奈川県地区大会個人の部で優勝
20代
30代
登山を始めました。日本アルプスの北岳、穂高岳、槍ヶ岳など、日本の高い山ベスト5のうち、4山に登りました。
同じころ 筋力をつけるためにトレーニングジムに通っていて、大腿筋、胸筋、三角筋、肩筋、背筋などをマシンでトレーニングし、腹筋は、頭が下がった負荷がかかる台で50回以上、それから腕立て伏せを20回やり、そのほかにエアロビクスをするというトレーニングを、週に1,2回やっていました。
40代 ジョギングを始め、週に1、2回くらい、約5キロ走りました。

*しかし、最も悪化したときは、歩くことはおろか、本を読むとかビデオを見るといったことを、すべて諦めました。
比較的、状態がよかったときでも、文章を書くのは原稿用紙2枚くらいが限度で、それも実用的な文章に限られ、このホームページのように、内容を考えながら書く作業はほとんど不可能でした。

さまざまな文献を読み、海外文献の翻訳までしながら、このホームページの文章が書けていることじたいが、最悪期を考えれば奇跡的なことです。以下に、治療内容と、その治療を受けていたころの症状および回復の過程を、できるだけ分かりやすく記載します。

3.治療内容(概略)

まず最初に、治療の概略について、何が目的で、どこをどう治療するのかを記し、次に、おのおのの治療とその効果を、わかりやすく併記していきたいと思います。

まず、この治療法は、薬剤の投薬が主流の治療に比べて、「コロンブスの卵」のように、患者側も発想の転換を要求される治療法といえます。医師は患者に、薬剤の投与はほとんど行いません。
(これは、化学物質過敏症を併発していて、どの薬を飲んでも非常に辛い副作用が出た私にはとても有り難いことでした。)

治療は、医師の論文にある「外側翼突筋」から、中脳の痛み中枢を構成する三叉神経中脳路核(Me5)、中脳中心灰白質(PAG)へと送られている、痛みの信号をブロックすることを主眼としています。
このために、治療は麻酔処置と、歯科医が使うスプリングに似た装置を併用します。
薬剤はほとんど使いませんが、患者によっては、ビタミン剤と、ヒスタミンの放出を抑えて、ヒスタミンニューロン系の興奮を抑える目的で、抗ヒスタミン剤の投与を行います。

そして、この装置のみでは回復が不十分で、社会復帰など、患者がめざす十分な回復が得られない場合は、その次に、外側翼突筋からの痛み入力が起こらない位置に下顎の位置を固定するために、必要な場所の歯牙の形を変える治療に移ります。
この治療は、医師が患者の歯の状態を見て、痛みが発生しない位置、つまり外側翼突筋から三叉神経中脳路核(Me5)への信号入力をブロックできる位置に顎関節を固定するため、歯牙の形状を変える必要のある歯を見つけ出し、それらの歯牙の形状を変えていきます。

具体的には、患者が過去に歯冠治療をしている歯の歯冠をはずし、必要な形状に作成した歯冠をその上にかぶせていきます。
この歯冠によって、外側翼突筋からの痛み入力が起こらない位置に下顎の位置を固定していきます。
(治療を受けた医院)

T.第一段階の治療

初診

まず、医師が患者を触診します。そして、痛みの発生する原因が、外側翼突筋から三叉神経中脳路核への、信号入力過多によるものかどうかについて診察します。
患者の外側翼突筋の状態を触診し、患者の顎関節を少しずつ移動させることによって、外側翼突筋の痛みを顕著に減少させられるかどうかの診断です。この診断で、痛みの原因がいわゆる「中枢感作」によるものとの診断がつけば、治療よる効果が期待できるということになりますし、逆に、外側翼突筋になにも変化が認められなければ、治療効果は期待できないということになります。


治療の開始

痛みの原因が「中枢感作」によるものであるという診断がつき、BOOT咬合療法の治療が効果をあげる可能性ありと医師が診断し、患者が治療を受けることに決めた場合には、医師が技工士に装置を発注し、それを一日三回、15分ずつ上の歯に嵌めて、外側翼突筋が痛まない位置に顎関節を徐々に誘導していきます。

このスプリントに似た装置は、一般の歯科医が造るものと外形はよく似ていますが、目的は違います。医師の作る装置は飽くまで「外側翼突筋の疼痛が顕著に減少する顎の位置を見つけ、その位置に誘導するため」のもので、一般の歯科医が使う、顎関節をよくするだけの目的のものではありません。

線維筋痛症を発症している患者の身体には相当強い痛みが発生していて、いきなり顎関節、ひいては外側翼突筋の位置を大きく動かすと、身体に大きな負荷がかかります。そのために、装置を嵌める時間は、最初はそれぞれの患者の状態、症状に合わせて、おのおの設定します。最初は、長い患者さんでも、1回15分ほどです。

その後、患者の身体が、装置が誘導する顎関節、外側翼突筋の位置に慣れていくに従って、装置を嵌める時間を少しずつ長くしていきます。
この治療をおよそ3ヶ月続けると、たいていの場合、痛みが減ってくるという変化が起きてきます。「中枢感作」による疾患のなかでも、比較的軽い筋筋膜痛症候群などの患者は、この段階で、ほぼ痛みがなくなる患者も多いということです。また、麻酔治療は、医師が患者の状態を見ながら、適時、外側翼突筋の痛みを減少させる目的で行います。

U.第一段階で現れた効果

*ご注意いただきたいことは、下記のレポートは、これを書いている私個人にあった効果であって、全ての人に同じ効果があるとは限りません。もっと効果が出る人もいますし、効果が限られている人もいます。患者さんによっては、この治療を受けられない場合もあります。
また、痛みの原因が中枢感作によらないもの、たとえば心因性の痛みなどの場合は、治療効果は見込めません。


第一段階治療の効果

まず、私の場合、この装置を使い始めてから2ヶ月後に、何となく痛みが減ってきたような気がしました。錯覚だろうかと思っていたら、さらにその1ヶ月後に、はっきりと痛みの量が減ってきたことが実感として分かりました。
健康な人の痛みの感じ方は、痛いか痛くないかだけではないでしょうか。しかしこの疾患を発症すると、痛みの質と量にさまざまなバリエーションがあることに気づきます。
痛みを発熱に例えると、装置を使い始めた頃は熱が40度以上あって、日常生活も家事もできない状態でした。それが装置を使い始めて約2ヶ月後に、その熱が38度くらいに下がった感じになりました。
そのころに、布団に座った姿勢で新聞を20分くらい読めるようになりました。それまではずっと寝たきりで、5分続けて新聞を読むことすらできませんでした。

また、そのころテレビが楽に見られるようになりました。ときどき目を休めれば、1時間番組をほぼ通して見られるようになりました。
私の場合、痛みのほかに、地面から強烈な磁力が出ているような、体がものすごく重い感じと、常に遊園地のフライングマシンに振り回されているような非常に強いめまいがありましたが、それもだんだん改善していきました。
そして装置を使い始めてから3ヶ月後に、パソコンの画面を見たり文章を打ち込んだりすることが、30分くらいできるようになりました。また、原稿用紙2枚くらいの長い文章が入力できるようになりました。

歩くなどの運動動作がかなりできるようになり始めたのは、装置を使い始めてから約半年後でした。

治療を始めて3ヶ月後に、ほとんど歩けなかったところから、100メートルくらい続けて歩けるようになりました。そして、一時装置が壊れ、症状が悪化し、しかし装置を補修してまた治療を始める過程を通し、治療開始半年後に、私はゆっくり歩けば500メートルを一気に歩けるようになりました。これは、悪化してからの数年間を考えてみれば信じられない回復でした。


それまでは一歩歩くごとに腰から背中、首まで激痛が走っていたのですが、500メートルを続けて歩けるくらいに痛みの量が減ってきたということになります。
それから2週間くらいで、それが1kmに延びました。このころから、砂袋を付けているような重量感、重い疲労感があまり感じられなくなってきて、目眩いも相当に減ってきました。そしてこのころに、身体を少しずつ回復させていくために、医師から、自分が痛みなく歩けると感じる距離を、ほとんど痛みがないくらいのゆっくりとした速度で、出来る限り歩くようにという指示が出ました。

そのころは痛みが減ってきたせいで、歩くことがそれまでよりずっと楽しくなってきました。また、歩く途中で店先に立ち止まり、並べられた商品を眺めたりする余裕が出てきました。
発熱に例えると37度くらいの感じです。まだ日常生活は無理ですが、1日のうち3分の2は寝ていても、必要があれば寝床から起きあがり、食パンくらいは買いに行ける感じになりました。
さらにそれからひと月くらい経つと、散歩の途中で、入った店の人と話をしたりする余裕が出てきました。それまでは外出のときはいつも猛烈な痛みのなかにいるために、病気のことを知らない人と話したりするのは、とても無理でした。
ただしこの時期、痛みそのものは、睡眠中に何度も目が覚めるくらいには残っていました。調子がよければ1キロくらい歩けるといっても、ちょっとしたことでもっと大きな痛みが起きて、3,4日くらい歩けなくなることもありました。

V.第二段階の治療

第二段階治療の開始(管理人の場合)

もともとの状態を考えれば、装置のみの治療でも、奇跡的によくなったという感じがありましたが、動けるようになってきたといっても、まだ痛みの量がかなりあったために、医師は、この治療のみでは不足と判断しました。

そして、続いて外側翼突筋からの痛み入力が起こらない位置に下顎の位置を固定するために、必要な場所の歯牙の形を変える治療に移りました。

この治療は、医師が患者の歯の状態を見て、痛みが発生しない位置、つまり外側翼突筋から三叉神経痛中脳路核(Me5)への信号入力をブロックできる位置に顎関節を固定するため、歯牙の形状を変える必要のある歯を見つけ出し、それらの歯牙の形状を変えていきます。具体的には、患者が過去に歯冠治療をしている歯の歯冠をはずし、必要な形状に作成したセラミック製の歯冠(クラウン)をその上にかぶせていきます。

私の実感では、この治療法には、普通の歯科治療と比べて、まるで違う種類の知識と診察テクニック、また精密な技術が必要になると思います。

外側翼突筋の痛みを減少させるための歯牙の形態を割り出すのに、一本ごとに、医師側に非常に手間と時間がかかるのと、医師が注文する装置や仮歯、歯冠を作る歯科技工士には、通常よりはるかに精度の高い技術が必要になります。
この歯冠は、一般の歯科技工士には作れません。
この歯冠を作成するときに医師が留意するのは歯牙の形状だけにとどまらないからです。
歯が噛み合ったときに、一つの歯には複数の歯からの圧力がかかります。三叉神経中脳路核への痛み信号の入力をブロックするには、形状を変えようとする目的の歯に対して、ほかの歯からかかる圧力のベクトルを全て計算し、どの歯からどのくらいの圧力がかかればもっとも痛み信号のブロックができるか、医師が細心の注意を払って割り出した形状にしたがって、歯冠を作成する必要があります。
単なるかみ合わせだけではなく、目的の歯に、必要な歯から、最適の力がかかるようにしなければなりません。

したがってこの歯冠の作成には、通常の歯冠の作成よりもはるかに高度な技術、テクニックが要求されます。
私も、装置や歯牙のとても微妙な差が、痛み、めまいといった症状に大きな変化をもたらすことを、自分の身体を通じて痛感しています。

医師は、治療上のキーになる外側翼突筋のほかに、それと連動して変化する僧帽筋、大胸筋、腰方形筋、ひらめ筋、腸腰筋などを触診し、それによって、治療に微妙な調整を加えていきます。いずれも細心で精密なテクニックが必要になり、医師と歯科技工士側の負担は、通常の治療とは比べものにならないほど大きいと思われます。

また、歯冠をかぶせ始める治療が始まると、その段階で、それまでの装置を嵌める治療が出来なくなるために、その間は仮歯で下顎位置を固定します。

W.第二段階で現れた効果

第二段階治療の効果

第二段階が始まると、およそ1ヶ月に1本の割合で、外側翼突筋から中脳への痛み信号をブロックする位置に、新しく歯冠をかぶせていきます。この治療を通じて、私の場合、奇跡のように症状が改善していきました。

改善していくようすを日記にして残してありますが、歯冠を3本入れた段階で、睡眠中に痛みで目が覚める回数が、一晩に1回くらいに減ってきました。それまでは、一晩に四回から五回くらい目が醒めるのが普通でした。

歯冠を4本かぶせた段階で、ほぼ毎晩、痛みに一度も目が覚めずに一晩通して眠ることができるようになりました。同じ頃に、繁華街に一人で行って、洋服を買ってくることができました。具体的には一人でバスに乗り、繁華街で下りて百貨店に入り、ジーンズとシャツを買って帰ってきました。治療を始めたころは、携帯電話さえ重くて持ち歩けなかったのですが、それと同じ自分とはとても思えませんでした。
重症で寝たきりだったころは、体が痛いために、ジーンズのような身体を締め付ける服を着るのは不可能でした。ジーンズを着られるようになったのは、歯冠をかぶせ始める前、装置を嵌める治療を始めて5ヶ月後でした。
(写真の説明:2008年1月、山梨の山城である勝山城跡に登ることが出来ました。)

そして、歯冠を5本かぶせた段階で、私は約10時間のあいだ、ノンストップで眠ることができました。これは発症以来、6年を通じて、初めてのことでした。
この段階で、私は3キロくらいの食料品を持って、80メートル歩くことができました。
またこのあたりで、私は睡眠導入剤の役割を果たす抗ヒスタミン剤の投与をストップしましたが、睡眠時間がてきめんに減ってしまい、六時間くらいで目が覚めるようになりました。しかしその後は身体が徐々に慣れて、7,8時間くらいは続けて眠れるようになりました。

この治療中に、非常に強い印象を受けた出来事がありました。歯冠をかぶせる前に、応急処置としてかぶせてある仮歯は、比較的柔らかいプラスチックでできており、数ヶ月間、それをかぶせたままにしてあると、ときどき一部が割れたり、歯から取れたりしてしまいます。
仮歯が一本でも、はがれたり、割れたりするたびに、身体の状態が、てきめんに悪くなりました。仮歯が取れた日に、まず大きなめまいが起こり、背中や首の痛みが起こり、前日までは楽に30分間も歩けていたのが、その日から50メートルも歩けなくなりました。

一本の仮歯が取れるだけで、恐ろしいほど状態が悪化しました。私は、この歴然とした変化を見て、この治療の効果を実感しました。
そして取れた仮歯をかぶせ直すと、その翌日くらいに、身体に起きていた痛みが消失し、その翌々日くらいから、それまで歩けていたのと同じ距離が、再び歩けるようになりました。
一度などは食事中に仮歯が欠け、その欠けた部分が小さかったために、うっかりゴミ箱に捨ててから医師のところに行ったら、新しく仮歯を作るあいだに症状が悪化しかねないので、ゴミ箱に捨てた仮歯を使うと医師に言われて、ゴミ箱の仮歯を取りに帰ったこともありました。

参考までに、この治療を行っている医院のホームページのURLはリンク集に紹介してあります。

*補足

治療前と後の、痛みの変化

私と同じ治療をされている方の多くは経験されていると思いますが、治療で、医師が顎位置を手で微調整するとき、それまでは何をやっても絶対消えなかった背中や首や肩の痛みが、すっと消えたり、とどこおっていた血流が流れ出したと感じたり、すうっと一瞬で、背中から腰までがほぐれる感覚などを感じることが多いです。

この痛みの変化については、施術前と後の痛みを、医師が、ペインビジョン(HPの「医療機関、および患者さんの介護をする方へ」参照)という痛み計測機器を使って計測していた結果が、論文になっています。

第1回線維筋痛症学会(大阪)
「線維筋痛症患者における、外側翼突筋に対する疼痛抑制処理前後の電気刺激閾値の変化について」

「臨床リウマチ」第21巻3号
(翼突筋除痛療法に関する論文)「電気的痛み定量計測器(Pain Vision)を用いて治療評価を行った線維筋痛症の症例」

この論文にあるように、翼突筋への施術前と、施術の後に、ペインビジョンで測った痛み数値を比較してみると、最初、2000を超えていた数値が、施術の後は500くらいになるとか、施術の前は750あったものが、150くらいになるとか、前と後を比較すると、数値が非常に下がるようです。

施術を受けた患者からすると、この数値の変化は、べつにびっくりするものではなく、だいたいそうだろうなあという感じで、1回の施術によって、そのくらいの差を感じることが多いです。

「中枢性過敏症候群」(「中枢感作」のページ参照)の特徴・・患者の脳は過敏になっている

でも、最初の診断のときに、これだけの痛みの軽減を感じた患者さんの中には、この治療を続ければ、きっとそれほど苦労することもなく、だんだんと痛みは軽くなるだろうと、希望を持つというか、楽観的に考えるかたもいるようです。

ですが、脳の持つ「可塑性」という特性を考えてみると、一度、非常に過敏になってしまった脳をもとの状態に戻すことは、非常に難しいという部分があると思います。

患者の脳が、(あるいは、さまざまな刺激に対する感覚)が、どれだけ過敏になっているかについては、以下のような例があります。

スーパーライザー(HPの「スーパーライザーについて」参照)という慢性痛に対する治療機器があって、この治療機器は総合病院の9割に入っているそうなので、多くの患者さんは、一度はこれを使った経験があるのではないかと思います。
FM患者さんの多くは、このライザーを使うと、レーザーが筋肉の奥に作用するのを感じるとか、敏感な患者さんの場合は、レーザー光が当たった場所が、ピリピリしたり、ひりひりするという方もいます。

ところが、健康な人は、このライザーをじかに皮膚に当てても、まったく、何も感じないそうです。これは、スーパーライザーを製造している医療機器メーカーの方から聞きました。
患者である私には、とうてい信じられない話だったので、何度も聞きなおしましたが、そのメーカーの方は、まったくどこにも異常のない健康な人で、ライザーをじかに肌に当てても、それが筋肉に作用する感じも、ぴりぴり感も、何も感じないということでした。機械に電源が入っているのか、入っていないのかさえ、わからないということです。

ちなみに、私の場合は、これだけ回復した現在も、ライザーの照射口を直接肌に当てると、レーザーが当たった個所が、ぴりぴりしますので、照射口を当てる時、わずかに肌から離してもらいます。
健康な人が皮膚に当てても何も感じないライザーを皮膚に当てると皮膚がピリピリするのは、この病気特有の、アロディニアという症状だと思います。
私は、これだけ回復した今も、アロディニア(つまり、脳の過敏化の一症状)が残っているということだと思います。(私の場合、最悪期の脳が、どれだけ過敏だったか、我ながら、よく生きていたと思います。)
これだけ過敏になってしまった脳を元の状態に戻すには、やはり、それなりに時間がかかることが多いと思います。

ですので、上記の治療でも、順調にめきめきと回復するかどうかは、患者さんによってさまざまだと思います。
私は、この疾患がどれだけ辛いか身をもって知っていますから、どの患者さんも一日も早く、この辛い疾患から回復すればいいなと思います。
また、本当に、数か月のあいだに、めきめきと回復される患者さんもおられるようです。でも、そういう方のみではなく、最初に感じた痛みの軽減からして、これなら早く治るのではないかという期待を感じながらも、でも、なかなか順調にいかない患者さんも、もしかしたらおられるかもしれません。

でも、脳の可塑化、脳中枢が非常に過敏になってしまうというこの病態からすると、そういう場合も、自分自身の状態を客観的にモニターしながら、冷静に治療に取り組んでいく必要があるかもしれないと思います。

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