治療法の優れた点など



 1.大脳指向型(BOOT)咬合療法の優れた点
 2.初めから現れる鋭い変化
 3.療法の課題
 4.治療後のメンテナンス

 補足:現在、治療中の患者さんへ

1.大脳指向型(BOOT)咬合療法の優れた点

優れた点は、なんといってもHPの「データで見る治療効果」のとおり、かなり高い確率で治療効果が望める点です。医師の談話でも、この治療を施した7割から8割くらいの患者さんに、かなり大きな治療効果が現れているということです。
治療効果のある患者さんの場合は、痛みだけでなく、眩暈や疲労感、重量感、微熱などの症状も一緒に改善してきます。私の場合、あれほど激しかった化学物質過敏症も一緒に和らぎました。

これらの症状は、HPの「世界の論文をまとめた教科書」のなかで示した図のように、「中枢感作」という共通のメカニズムによって引き起こされている症状であることで、痛みが軽くなるとともにそれらの症状も改善していくという推測がなりたちます。
治療じたいは薬剤をほとんど使用しないので、私のように、当初は激しい化学物質過敏症を起こしていた患者でも適用できるところが優れていると思います。

2.初めから現れる鋭い変化

治療の初めから訪れる鋭い症状

この治療法を受けている患者さんをそばで見ていると、年齢が若くて発病してから時間が経っていない患者さんではとくに、ごく初期の段階から、鋭い変化が現れます。
治療に使用する装置が、原発病巣と目される外側翼突筋にじかに効くために、装置を入れたその場で、身体や痛みがすっと楽になったり、あるいはよく効くマッサージを受けたような効果があったり、あるいはひどい眩暈があったのが、視野がはっきりしてよく見えるようになった感じがあったりします。
また装置が翼突筋に作用することで、全身の筋肉に反射作用が起こり、強ばっていた筋肉から強ばりが解け、身体が柔らかく、くにゃくにゃになったような感じになることもあります。(反射作用については、HPの「治療の組み合わせ」をご覧ください)

NPO法人「線維筋痛症友の会」が発行しているパンフレットによれば、「誰にでも効果が認められる薬はなく、さまざまな種類の薬を数週間から数ヶ月のあいだ試し、ようすをみて、自分自身に合う薬を見つけることになる」とあります。
管理人の経験でも、過去の薬物投与中心の治療では、どれが合うのか、とにかくいろいろ試してみるといった感じで、化学物質過敏症を併発していた私は、効果よりもまず先に副作用が出て、しかも副作用は次第に重くなり、症状じたいはほとんど動かなかったのですが、この治療を受けている患者さんは、若い患者さんなどはとくに、治療後すぐに鋭い変化が現れ、それだけでびっくりします。

装置に微調整を加える過程

ところで、どの患者さんも多いなり少ないなり、過去に何回かは歯科治療を行っています。そのために、歯のかみ合わせは、大なり小なり元の位置からずれています。
この大脳指向型(BOOT)咬合療法は、この「かみ合わせのずれによって外側翼突筋が痛み、その痛んだ筋肉から中脳の痛み中枢へ、痛み信号が流され続けていることによって全身に大きな痛みが発生している」という、臨床上、蓋然性のある推論に基づいて編み出された治療法です。
この装置を使い続けることで、患者の身体にはさまざまな変化が現れてきますが、その後、医師があちこちの筋肉の状態を触診し、その変化をつかんで、装置そのものに調整を加えていきます。
具体的には、装置をはめたときの身体の状態を見ながら、外側翼突筋と、それに連動して変化する僧帽筋、大胸筋、腰方形筋、ひらめ筋、腸腰筋などの状態を触診し、装置に調整を加えていくわけです。これは、外側翼突筋から中脳の痛み中枢へ、多量に流され続ける痛み信号を止める位置へと顎関節を導くために、装置に微妙な調整を加えていく過程でもあります。

そのときに、たとえば装置に手を加え、片側の歯のかみ合わせを望ましい位置に合わせると、反対側の歯がそれに引っ張られてほんのわずか位置が狂ったりします。そしてその狂いが、全身の痛みやめまい、疲労感といった症状の変化を呼び起こします。医師はそれを触診や患者の訴えによってつかみ、反対側のかみ合わせが望ましい位置に来るように、再度、装置に調整を加えます。


ミクロン単位の違いによって症状が激しく変わる

装置のミクロン単位の微妙な違いによって、症状が悪化したり良くなったりと、恐ろしいほどの変化が起きるのは、治療の第2段階で歯冠をかぶせていく時の治療にも共通しています。(HP「効果があった理学的療法」のなかの「C、治療内容(概略)ー4、第二段階で現れた効果」を参照ください)

従って、この段階では、医師のもとにかなり頻繁に通い、身体の状態を医師に診せながら、装置に微調整を加えていくことが必要になります。しかし、医院に頻繁に通える患者さんばかりとは限りません。
この治療ができる医師が非常に限られているために、全国各地から飛行機で医師の元に治療を受けにきている患者さんがたくさんいますが、飛行機や新幹線に乗って通うのは、時間的、身体的に大変です。

本当ならば、せめて週に一度は装置に調整を加えることで治療により効果が出るところを、月に1回くらいの通院になると、間が開いているときに装置に微妙な狂いが出たり、それによってまた症状が悪化したりと、頻繁に通うことのできる患者さんに比べて、治療に同じ期間をかけても、効果が出るのが遅い、治療に時間がかかるということがありがちです。

3.療法の課題

治療ができる医師が限られている

また、飛行機や新幹線に乗って移動するのは、重症になってしまった患者さんには大変です。重症の患者さんが長時間飛行機や新幹線に乗って移動するとき、身体にかかる負荷は非常に大きいものがあります。このために、装置を嵌めて得られる治療効果がマイナスになってしまうこと、また、移動によって身体に極めて大きな負荷がかかるために、装置を嵌めることで訪れる微細な身体的変化も台無しになります。治療を行う医師は、身体に表れる微細な変化を触診しながら、より望ましい位置に翼突筋を導いていくので、身体に訪れる変化がつかめなければ、治療を行うのは困難です。したがって、遠方に住んでいる重症の患者さんがこの治療を行いたいと希望しても、治療や診療を通うのは難しいです。

管理人の場合、軽症であれば、飛行機で通うという選択肢もあり得たのですが、残念ながら非常に悪化していたために、医師から、医院の近くに住まいを移し、そこから医院に通う体勢にしなければ治療はできないと言われました。
「管理人紹介」の「治療歴」にあるとおり、私はそれまでさまざまな医療機関に通った結果、万策尽きた状態だったので、一時、医院の近くに住まいを移して治療をすることを決断しました。

しかも、私の場合、
・治療開始年齢が49歳と比較的遅かったこと、
・新聞も読めずパソコンもできず、全く歩けないという非常に悪化した状態だったこと、
・発症してから5年以上も経過していたこと、
ということで、年齢が若くて発症してから日が浅く、しかも軽症の患者さんに比べて、非常にハンデのある状態から治療を始めました。

したがって、私の場合は、そういう患者さんなら最初から訪れる、非常に鋭い変化が何も起こらず、最初に装置を嵌めたときには、ぴくりとも状態が動きませんでした。しかしそれでも、装置を使い始めてから3ヶ月すると、さすがに痛みが軽くなるという変化が起き始めました。
このような事情で、医院から遠方におられる患者さんは、治療がうけずらいということがあります。
できれば、この治療法とメカニズムを理解し、治療テクニックを備えた医師が、それぞれ患者の住んでいる場所の近くにいれば、患者がこれほどの負担を被らずに済むわけです。治療が出来る医師が極めて限られていることが、この治療法の課題といえると思います。

患者に負担感のある治療費

また、この治療は保険治療ではないために、保険治療に比べて費用は高額になります。この疾患を発症してしまった患者さんは、それまでのあいだに、多額の医療費や介護費用、交通費などを強いられています。おそらく、高額になる費用の負担感は、健康な人の何倍もあるだろうと思います。これはとても大きな課題といえると思います。
私の場合は、治療を始める前に「ほぼ四肢全廃」という診断書をもらっており、また、過去に行ったどの治療でもはかばかしい効果がなく、まったくの絶望的状況だったので、費用については「高い」という感じは受けませんでしたた。
誰でも、もし手足が四本とも切断されたとして、それが四本とも生えてくる治療なら、高いという感じは受けないでしょう。私の場合はそういった比較がなりたつくらい、高い治療効果がありました。


医療側の大きな負担

しかし、この治療は効果が望めるかわりに、装置に使用する特殊樹脂とか、治療に必要な諸経費も高価であり、また、治療そのものに非常に時間と手間がかかるために、それが医療側の負担にもなっています。
ほかの研究者や、歯科医以外の医療関係者によって、外側翼突筋から脳の痛み中枢への信号ブロックに、現在のアプローチ以外の方法で成功できれば、そういった治療と組み合わせることで、医師の負担や患者の費用負担の軽減が図れるようになる可能性もあるでしょう。
あるいは製薬会社によって、外側翼突筋から中脳への痛み信号をブロックできる薬剤の開発などが可能になれば、医師の負担の低減、患者の費用負担の低減が図れるかもしれません。その場合でも、化学物質過敏症を併発している患者さんが使っても安心なように、化学物質過敏症を克服した薬剤の開発が望まれます。
また、この治療法が広まって保険治療の対象になるとか、そういうことによる費用の低減が望まれます。

4.治療後のメンテナンス

大音量で鳴り続ける「ラジオ」(中脳の痛み中枢)

大脳指向型(BOOT)咬合療法は、おおまかに例えると、以下のようにも言えるかと思います。
音量が最大になったままの状態で、壊れてしまったラジオがあるとします。ラジオそのものの修理は、なかなか難しいですが、ラジオに電力を供給している電源を抜けば、大音量で音を鳴らし続けるラジオの音を止めることができます。
この場合の「ラジオ」は、痛み信号を全身に流し続ける「脳の痛み中枢」で、そのラジオ(脳の痛み中枢)に電力(痛み信号)が流れるのをストップさせれば、痛みは止まります。
つまり、ラジオ(脳の痛み中枢)に電力(痛み信号)を流し続ける電源(外側翼突筋)を修理し、ラジオに電力を供給するのをストップする、それによって大音響の音(痛み)を止める、そういった治療とたとえることができるのではないかと思います。

ただし、治療によって修理(治療)した外側翼突筋も、翼突筋にじかに影響のあるかみ合わせを変化させることで、ふたたび痛んでいく可能性があります。
したがって、治療によって回復したあと、それぞれの患者さんは、長く厳しい治療によって、せっかく望ましい位置に導いたかみ合わせを、ふたたび変化させることは絶対に避ける必要があります。
現在、普通医の四人に一人が線維筋痛症について知らないというデータがあるくらいなので、一般の歯科医で、線維筋痛症について知識のある医師はゼロに等しい状況です。つまり、線維筋痛症を悪化させない観点から歯科治療を行える医師も、ゼロに等しいということになります。

この治療法で、線維筋痛症などの痛みの伴う疾患から回復した患者さんは300人以上おられますが、患者さんが今後、虫歯などの歯科治療を行う場合、外側翼突筋を再び痛めない形で治療を行える医師は、現在、ほとんどいないことが大きな課題になっていくのではないでしょうか。
現在、この治療法を行っている医師が現役を退く前に、患者の歯科治療、あるいは大脳指向型(BOOT)咬合療法を引き継ぐ医師が現れるかどうか、それがこの治療法の大きな課題であると思われます。

回復した患者には特に大事な口腔のケア

これらの現状を見ても、この治療法で回復した患者さんたちの口腔内のケアは、非常に大事になります。
絶対に避けなければならないのは、治療によって望ましい位置に導いた顎関節、つまり治療後の歯のかみ合わせを変化させること、そして、せっかく治療によって回復した外側翼突筋を、再び痛めてしまうことです。
そのためには、虫歯を作らない、歯周病にならない、すでに歯周病のある患者さんは治療に全力を挙げることなどが必要です。虫歯も歯周病も、かみ合わせにじかに影響するからです。
人生は80年と言われ、老年期に入れば加齢によって歯が抜けたり、歯茎が衰えたりと、当然の変化が現れます。それらの変化を一日でも遅らせるために、一度線維筋痛症になり、この治療法で回復した患者さんの場合は、口腔内のケアは、普通の人の何倍も重要になると思われます。

ちなみに管理人も、口腔内、つまり歯と歯茎のケアには、非常に手間と時間をかけています。使っている歯ブラシは二種類で、一つは通常のタイプ、もう一つは、一番奥の歯の裏側を磨く、ブラシ部分が三角型のタイプです。
私は治療を始める前の段階で、右上の奥歯が二本、欠損していました。医師によると、私の顎骨の形状から、奥歯のインプラント手術を施すのは不可能とのことでした。したがって、かみ合わせを正しく調整するには重要な位置を占める、奥歯が二本も欠損していることが、私の場合、治療上の大きなハンデになりました。
私の場合は、これ以上、奥歯を一本でも失うと、大変なことになると予想できるので、奥歯のケアには特に気を遣い、普通の歯ブラシが届かないところに届く、奥歯専用の歯ブラシを使っているわけです。
歯間ブラシは、L、M、Sと三種類使い、食事をしたあとは必ず歯磨きをし、一回に最低20分はかけます。
ちょっと聞くと大変のようですが、一時、私は激痛でできた棺桶のなかに閉じこめられ、そこから手も足も出なかったのですから、再びあの棺桶に入らないで済むのなら、このくらいの手間は、お安いものです。

補足:現在、治療中の患者さんへ

ほぼ四肢全廃の身体で、一人で住まいを移して治療をする決断をした私は、最初は治療による変化が何も起こらず、まず回復はできないだろうと諦めていました。それでも最後の最後まで自死はしないで頑張るんだということだけを目標に、独りきりで24時間、ただただ部屋に横たわっていました。
線維筋痛症の病態についてよく把握している入院施設が限られているため、まったく歩けない身体のまま部屋を借り、ヘルパーさんや宅配サービスの助けを借りて自活するしか方法がありませんでした。

現在も、住まいを医院の近くに移して、長い治療をしている患者さんがいます。24時間痛みが襲ってくる身体で、一人で自活するのは想像を絶する辛さがあります。
自分自身の精神力だけが頼りです。そういう患者さんを見るたびに自分の辛さを思い出し、胸が痛みます。
でも、この状態を耐えて、テレビも見られなかったような状態から、パソコンでこのHPが作れるようになった患者がいます。HPを作ったほかにも、映画も観られるようになり、美術館や図書館にも行けるようになりました。ミュージカルやクラシックコンサートにも行けるようになりました。ギャラリーに行って、そこで知り合った人と何時間もおしゃべりできるようになりました。
ほとんど動けない身体で住まいを移ってきた患者さんを見るたびに、独りきりでの辛い治療に、なんとかがんばって耐えて欲しい。心からそう願わずにはいられません。


*ある20代の患者さんの話

ある若い患者さんは、一時はとても悪化していて、独りでトイレにも行けない状態でした。でも、その患者さんは、近い将来に、必ず結婚して出産するという夢を持っていました。
2008年6月ごろ、彼女は故郷を離れて独りきりで福岡に移住し、長期に渡る治療を開始しました。
彼女から話を聞いた私は、自分自身の回復度合いから見て、彼女の希望には、十分可能性があると思っていました。
もし、トイレにも行けないほど悪化していたところから、子供を出産するところまでこぎ着ければ、悪化している患者さんにとって、どれだけ大きな希望かわからなりません。
彼女は「めざせ、できちゃった結婚」と言って、独りきりの治療に耐えていました。
                         (2008年・秋に記す)

この患者さんのその後

2010年6月、福岡に治療に行ったとき、私は久しぶりにこの患者さんに会いました。そして、「小田さん、私、結婚したんですよ」と言われて、びっくりしました。彼女はすでに回復して、福岡から故郷に帰り、ある方とご縁があって結婚したそうです。

彼女が治療を始めたきっかけは、このHPを見たことでした。
でも、最初はたしかにそうだったかもしれませんが、福岡にたった独りで滞在し、長期にわたる治療を粘り強く続けるのは、本当に大変なことです。ここまでの回復に至ったのは、彼女自身の頑張りを抜きにして語れないと思います。

2008年当時の彼女は、本当につらそうでした。当時の状態を知っているだけに、夢だった結婚ができるくらいまで回復したと聞いて、本当に嬉しかったです。
もう一つの夢だった「出産」は、時期を見て、自信がついたらトライしたいと言っていました。
彼女が目標としていた「出来ちゃった結婚」ではなかったですが(笑)、もし出産までこぎつければ、悪化した患者さんにとっては、大きな希望になるのではないでしょうか。

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