イ.線維筋痛症の著しい特長
1.線維筋痛症の患者の痛みは、非常に激しい。
この疾患を発症している患者の痛みがどれだけ激しいかについては、痛みの量を計測する装置を使って収集したデータがあります。
2007年の線維筋痛症公開シンポジウムで、聖マリアンナ大学の岡寛準教授は、ニプロ(株)が発売した「Pain Vision」(痛み定量化装置)で、線維筋痛症患者が感じる痛みのデータを発表しました。
それによると、患者の平均数値は、男性が361、91,女性が448,2でした。比較対象として、辛い痛みを伴うとして知られているリウマチ患者の数値を比べてみると、ほとんどの患者さんの数値は、100を越えることはないそうです。
この数値をもとに考えてみても、線維筋痛症の患者は、リウマチ患者の、数倍から数十倍の激痛に苦しんでいるということになります。
しかも、データを取った47人の女性患者のうち5人は、普通の人であれば痛みで卒倒する数値、1000を越える値が出ました。
重症になった患者の一人として、この数値は、私自身、非常に納得のいくものです。しかも重症になった患者の多くは、痛みが休みなく続き、寝ているときもとくに減ることはありません。
2.痛む箇所が、よく移動する。
この疾患に特徴的なのは、非常に痛いというだけではなく、痛む箇所がよく移動するということです。たとえば、きょうは少し楽だから歩いてみようといったとき、歩き始めた最初は右足の付け根が痛いと言っていたのが、しばらくすると右より左のほうが痛いと言ったり、歩き始めは腰が痛かったのが、しばらくすると腰よりも背中が痛くなっているとか、そういうことが、ままあります。
これは、この疾患の痛みがどこから起こっているのかということに関わります。痛みが起こるメカニズムについては、HPの「線維筋痛症の概念」のページをご参照いただきたいと思いますが、とくに次の記述が、この疾患の特徴的な部分です。
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「線維筋痛症は、脳のなかの痛みを感じる感受性の部分が変化を起こし、身体の各部分には異常が起きていないにもかかわらず、患者自身が激しい痛みを感じる疾患です。身体には異常が起きていないのに、患者が激しい痛みを感じるのは、末梢にある痛みを感じる感覚受容器から、痛みの中枢に至るまでの痛みの伝達経路(つまり痛み信号の上り経路)のどこかに、異常が起きているからだと考えられています。
」
「身体のどこかが致命的に痛んでいたり、傷を受けているときに、脳がそれに気づかないでいては、もっともだいじな生命が危機に瀕してしまいます。したがって何かしらの異常を感知したときには、脳はすべての活動をストップさせ、その「警報」、つまり痛みに気持ちや神経を集中させようとするでしょう。
そして線維筋痛症は、たとえてみれば、その装置が警報を出した状態のままで故障し、警報が鳴りっぱなしの状態が四六時中続くという病です。つまり、生命の危機を知らせる警報「痛み」が発生し、「この警報に注意しなさい」という状態のまま、「痛み」のスイッチが入りっぱなしになっているようなものといえます。」
「それは、人間の中脳部にある、痛みを伝達するときの感度を調整するべき機能が、上手く働かないということになります。」
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つまり、線維筋痛症の場合、たとえば骨が折れていたりとか、潰瘍や腫瘍があるから痛いという、正常な形で発生する痛みとは違う痛みということになります。
痛みを司る、脳内の痛み中枢がいわば故障し、身体の各部分には異常がないのにもかかわらず、「痛み」という警報を出したままの状態がずっと続いているという疾患です。
痛む部分には別に異常が起こっていないので、痛む箇所のレントゲンを撮っても、通常は異常は見られません。また、患者が感じる痛む箇所がよく移動するのも、中枢で感じている痛みであるということと関係しているものと考えられます。
ふつうの患者さんなら、痛む場所が骨折しているとか、あるいは潰瘍があるとか、そこに何かしらの不具合が起こっているから痛むわけで、ふだん、そういう患者さんの介護をしている立場からすれば、線維筋痛症患者の言っていることは、どうも嘘くさく聞こえるかもしれません。しかし、私の経験でも、痛む箇所は、よく移動します。しかも、それは本当に痛いわけで、決して嘘を言っているわけではありません。
線維筋痛症患者の介護をされている方は、患者さんの言っていることを疑わずに、受け止めてあげて欲しいと思います。
また、線維筋痛症という疾患について、非常によく把握しているとはいえない医療機関の場合、患者が入院しても、介護をする方から誤解を受けることがあるようです。
怪我からリハビリ途中の患者さんや、老化を防ぐための運動をしている患者さんと、線維筋痛症が一緒の形で考えられたり、扱われたりということが、ときどきあるようです。
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線維筋痛症患者が感じる痛みは、脳中枢の異常によって引き起こされる痛みであって、怪我をした腕、肩とか腰などを、リハビリを通して元通りにするという概念や、老化を防ぐために運動をまめにして運動機能を温存するといった概念は、当てはまらないことが多いです。
たしかに線維筋痛症に適していると言われる運動もありますが、それを行う場合は、線維筋痛症という疾患についてじゅうぶん理解している必要があるでしょう。
とくに重症になってしまった患者さんとか、痛くてそれができないという患者に、無理に作業を強要すると、症状が悪化することが十分にありえます。
患者に起きている脳の痛み中枢の異常は、痛みを伝達する信号が、過剰に身体を巡っている状態です。
患者は、末端の痛みの感覚受容器から脳へ、痛み信号が過剰に送られているから痛みを感じるわけで、感覚受容器からの痛み信号のインプットが多くなれば、痛みはさらに増します。
通常の、身体に負担をかけるリハビリのような作業は、感覚受容器からの痛み信号のインプットがさらに増える可能性があり、リハビリすればするほど痛みが増え、状態が悪化することも、ないではありません。
管理人も、20メートルから30メートルくらい歩ける比較的状態のいい時に、当時治療を受けていた医師から、「プールの中を歩くといい。そうすると、もっと動けるようになる」と言われ、すぐにプールに行って、胸まで水に浸かりながら、ゆっくり休み休み15分くらい歩きました。すると、その翌日に関節がはずれたような激痛が腰に走り、足が一歩も前に出なくなりました。そしてその状態が、3ヶ月くらい続きました。
患者さんが今感じている痛みを増やさないためには、まず、感覚受容器からの痛み信号のインプットを減らすことが重要です。患者さんが強い痛みを感じているときは、さらに痛みを感じるような行動や、作業は極力、控えた方が無難な場合が多いです。
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3.薬を飲むと、激しい副作用が出ることがある。
詳しい説明は、「線維筋痛症と化学物質過敏症」のページをご参照いただきたいと思います。
この説明にもあるように、線維筋痛症患者は、化学物質過敏症を併発していることが、ままあります。
管理人である私も、線維筋痛症を発症してから目が非常に見えにくくなり、それでも目を無理して使ったことが引き金になったのか、白内障、緑内障をともに発症しました。しかし、眼科で処方された白内障、緑内障の点眼薬を目に点しただけで発熱し、具合が悪くなりました。もちろん線維筋痛症を発症するまでは、点眼薬を点して発熱したことは一度もありません。眼科で聞いたところ、処方された点眼薬で、発熱して具合が悪くなる患者さんはほかにはいないということでした。
管理人である私も、線維筋痛症を発症してから、処方される薬剤に非常に過敏になりましたが、化学物質過敏症を併発している場合には、薬を飲んだときの副作用が、通常よりはるかに激しい場合があります。
患者さんが、「薬を飲むと嘔吐したり強い眩暈がしたり、非常に辛い」と言っているような場合には、薬を飲むことを強要しないであげてほしいと思います。
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