5.「身体表現性障害」と線維筋痛症
線維筋痛症は、その名の通り、全身に非常に強い痛みが発生しますが、それ以外にもさまざまに多彩な症状が出ます。
これらは多くの場合、医師から「不定愁訴」といった名付けられ方をするようです。
また、線維筋痛症の患者さんのなかには、これまでに、さまざまな体の不具合を、「身体表現性障害」という名前で呼ばれたという方が、かなりおられるようです。
「身体表現性障害」という名前は、患者さん方にも、あまり耳慣れない名前ではないかと思います。専門家が発表した「身体表現性障害」に関する文献を見てみると、下記のようなものがあります。
(日医雑誌第134巻第2号2005年5月)
身体表現性障害の概要(特集身体表現性障害)
宮崎等・北里大学教授(精神科)
(「おわりに」より、一部抜粋)
1. 身体表現性障害はいくつかの疾患をまとめた呼称であり、診断名ではない。
2. 身体表現性障害には身体化障害、疼痛性障害、心気障害、身体醜形障害、身体表現性自律神経機能不全などが含まれる。
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私自身は、線維筋痛症が悪化し、複雑で多彩な症状が出てきたとき、これらの諸症状は、おそらく、現代医学の限界を超えているのではないかと思いました。なぜなら、そのどの症状も、それまでの人生で一度も体験したことのないものばかりだったからです。
なぜこんな症状が起こるのか、自分でもまるで不可解で、その原因がまったくつかめず、そのため、どの医師に対しても、何も治療のヒントになりそうなことが言えそうにありませんでした。
翼突筋除痛療法を受ける前、私は、これらの症状が、この治療で回復するとは、まったく考えていませんでした。
ですから、翼突筋除痛療法を続け、これらの症状が徐々に消えていっていると実感したとき、私は驚愕しました。
最悪の頃に私に出ていた痛み以外の諸症状は、およそ以下の通りでした。
(上記の「痛み以外の重い症状」から引用)
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*強い眩暈
最悪期の私は、頭を普通の早さで、左とか右に傾けることが出来ませんでした。急に傾けたり、急に右を向いたり左を向いたりすると、地球がぐるぐる回るような強い眩暈が襲ってきました。
また、少しでも動くものを見ると、船酔いのような症状が出るので、悪化したときは、テレビでのスポーツ観戦ができなくなりました。サッカーやバレーボールの試合で、動くボールを見ると、すぐに車酔いのような状態になるため、ボールを目で追うことができなかったからです。
また、「振動」に非常に弱く、車椅子の振動も、車やバスに乗ったときの振動も、電車の振動も、どれも洗濯機にもみくちゃにされるように、まるで地獄の底に落ちるように、きつかったです。
それから、目が、明るさに非常に弱くなり、太陽はもちろん、蛍光灯とか、室内で明るい窓を見ることも苦しくなりました。
同じように、さまざまな色彩のものを、一度に見るのが辛く、スーパーなどで、さまざまな色彩に彩られた品物がぎっしり並んでいる陳列棚を見られないので、スーパーなどには入れませんでした。
同じ理由で、新聞のチラシなどを見るのも、とても苦労しました。
*重量感
上記と同じ時期、身体を縦にしているのが非常にしんどく、体中に鉛の袋をぶら下げているような重量感がありました。
たとえばタクシーで病院に行くと、その間の車の振動で、症状がさらに悪化しているので、タクシーから転げ落ちるように降りると、そのまま地面にべったり座り、地面につっぷした状態のまま、顔も上げられない感じになります。
病院の看護婦さんが「大丈夫ですか?!」と車椅子を押しながら駆け寄ってくるまで、立ち上がることすら出来ないという感じでした。
たとえて言うと、宇宙飛行士が無重力の宇宙から帰ってきたあと、身体じゅうに重力がかかって身動きが取れないといった感じです。
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*疲労感
ちょっとした行動をするだけで、ものすごく疲れます。用意された食事をして、とても疲れて15分横になって休憩し、トイレに行きたくなったので、伝い歩きしてトイレに行って、今度は30分、横になって休憩するという感じでした。
*発熱
線維筋痛症を発症してから、両目に白内障と緑内障が出て、眼科で、そのための点眼薬を処方されましたが、その点眼薬を目に差すだけで、微熱が出ました。
緑内障は視野が欠け始める病気で、眼科では、検査のために瞳孔を広げる薬を目に差すのですが、この薬でも発熱し、FMの症状も悪化しました。
このほかにも、睡眠障害、筋力の低下など、さまざまな症状が出ました。
私は発症するまでは、忙しい仕事のあいまに北アルブスに登山し、そのあいまに発展途上国関係の学習会を主催し、そのニュースレターを発行、発送し、またその合間に本を何冊も読み、その合間に絵画展に行くといった、少しの間もじっとしていられないようなタイプでした。
なので、上記のような変化を起こしている自分を見て、「いったい自分の身体に何が起こっているのか」と、本当に不可解でした。
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私は、これらの、まるで訳が分からないさまざまな症状は、現代医学が対応できる枠を越えているという感じがすごく強かったので、医師に、あまり詳しい説明はしませんでした。
今、考えてみると、もしこれらの症状について、医師に強く訴えていたら、もしかすると私の場合も、医師から「身体表現性障害」の名を告げられていたかもしれないと思います。
ほかの患者さんと同じように、私も、レントゲンや血液検査、尿検査、脳のMRIなどでは、異常らしい異常は見つかりませんでした。また、どう考えても異常を感じている私自身の実感にもかかわらず、脳のMRIを行った医師からは、私の脳は、年齢に比べてかなり若いと言われました。
それなのに、なぜこんな多彩で訳の分からない症状が次々と出てくるのだろうと、ずっと底知れないものを感じていたのですが、下記の「中枢感作」の図を初めて見たときに、患者としてとても納得しました。このメカニズムがよく整理されていて、わかりやすいと思いました。
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また、翼突筋除痛療法を行っている山田医師から、発熱や睡眠をつかさどる、後部視床下部のヒスタミンニューロン系の説明を聞いたとき、なぜ、この治療が、自分でもまったく不可解だったさまざまな症状、激しいめまい、発熱、睡眠障害、筋力低下などにも効果があるのかが、理解できました。
(これに関する詳しい説明は、HPの「痛み以外の症状」に入れてあります)
翼突筋除痛療法は、この中枢感作のメカニズムを応用した治療なので、複雑な症状のそれぞれが、回復していくことが望めるのだろうと思います。
下の写真は2009年6月8日に撮影したものです。
上記のような状態から回復しました。
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