線維筋痛症に関する参考書の紹介



 0.患者が自分で勉強する重要性

 1.「線維筋痛症とそのほかの中枢性の疼痛症候群」(専門家向けの本)
  (Fibromyalgia & Other Central Pain Syndromes)
  *2005年までに世界で研究されてきた内容をまとめた本です。

 2.日本で出版された、患者さん向けの本。
 「線維筋痛症がわかる本」(戸田克広著)
 「線維筋痛症は改善できる」(今野孝彦著)

 3.歯科治療でなぜ線維筋痛症が改善するのか。参考図書の紹介
 「歯科からの医療革命(体の症状を歯から治す)」
 「歯科からの逆襲(現代医学が苦手とする難病、奇病、慢性病への挑戦が始まった)」 
     (ともに藤井佳朗著)

0.患者が自分で勉強する重要性

私は、患者が自分で勉強したり、自分の疾患について調べたりすることは重要だと思います。
たとえば文芸春秋2011年2月特別号で、立花隆氏(ジャーナリストで癌患者)と慶応大学医学部講師の近藤誠氏が「抗がん剤は効かないのか」というテーマで対談をしています。
この記事を読むと、疾患に関するさまざまな情報のうち、「専門家が知っていても言わない」、あるいは、「言わないという以前に、専門家の医師さえ知らない」ことが、実にたくさんあるということがよくわかります。
芸能レポーターの梨元勝氏は肺がん、ジャーナリストの筑紫哲也氏も癌で亡くなりましたが、対談によれば、お二人は癌死ではなく抗癌剤による死か、あるいは抗がん剤によって寿命をかなり縮めた可能性が高いと言及されています。


近藤誠医師の著書「名医の有害な治療・死を早める手術」(だいわ文庫・2008年出版)では、以下のような事も出てきます。
「日本では、医師が英文をあまり読めない」
「日本のそれぞれの専門家が日本で論文を書くと、世界的にはレビュー(査読)するのが当然とされている文献を、レビューしない、それで論文を書く。これは、ある種、犯罪に近い」「(国内で発表する論文で)、世界的には必ず引用される(つまり世界標準の)文献に触れないのは、ある種の情報操作である」


これらは癌の世界の話ですが、線維筋痛症の世界でも、線維筋痛症を説明する概念として世界中で知られ、グーグルで検索すると、1200万件以上の記事がヒットする「central sensitivity syndrome」(「中枢感作症候群」あるいは「中枢性過敏症候群」:脳中枢が過敏になる症候群といった意味)についても、日本のなかでこれに言及した論文は、ほとんど見当たりません。

こういったことを見ても、私は、線維筋痛症や、その前駆症状である顎関節症などの患者さんも、自分で勉強することが、とても大事だと思います。
以下に患者さんの参考になりそうな本を紹介します。

1.「線維筋痛症とそのほかの中枢性の疼痛症候群」
(Fibromyalgia & Other Central Pain Syndromes)

アメリカで発行された医学書

一般に、線維筋痛症は難治性の疾患と言われています。この疾患は、日本では非常に知名度が低く、ほとんど知られていませんが、欧米では日本よりはずっと知名度が高く、研究が始まったのも日本よりかなり古いです。
発症するメカニズムや治療法についても、海外では100年以上も前から、さまざまな研究が重ねられています。


2005年に、アメリカで、これまでの研究を統括した基礎医学書である「線維筋痛症とそのほかの中枢性の疼痛症候群」が出版されました。
執筆者は、米国32人、イギリス3人、ドイツ1人、カナダ4人、スウェーデン1人、メキシコ、スイス、計7カ国の研究者の方々です。


「線維筋痛症とそのほかの中枢性の疼痛症候群」(Fibromyalgia & Other Central Pain Syndromes)」
2005年、アメリカで発行
発行元:LIPPINCOTT WILLIAMS&WILKINS
A Wolters Kluwer Company
上記の本の骨格にあたる第4章「中枢性過敏症候群の概念」のなかで、線維筋痛症が、他にもある痛みを伴う疾患の中で、どのような位置づけで考えるべきかが図解されています。(下記の図参照)

*中枢性過敏症候群(central sensitivity syndromes)内疾患のキーワードについて

下記の二つの言葉は、当HP内に何度も出てきます。いろいろな日本語訳があり得ますが、当HPでは、二つの言葉を以下のように訳しています。

central sensitivity syndromes:「中枢性過敏症候群」
central sensitization:「中枢(性)感作」



本書・第4章「中枢性過敏症候群の概念」
図ー2.

現在提唱している
中枢性過敏症候群(CSS)内疾患。うつ病も含む。この相互に関係している疾患同士を結んでいる共通の病態生理が中枢性感作である。
IBS(過敏性腸症候群)、T−T頭痛(緊張型頭痛)、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、MCS(多重化学物質過敏症)、PLMD(周期性四肢運動障害)、TMD(顎関節症)、MPS(筋筋膜性疼痛症候群)。

(上記より引用)


*下記は各国にわたる執筆者の一覧です



2.日本で出版された患者さん向けの本

「線維筋痛症がわかる本」
2010年6月出版:主婦の友社   著者:戸田克広


「線維筋痛症は改善できる」
2011年3月出版:保健同人社  著者:今野孝彦

患者さんの多くは、近くに線維筋痛症患者を治療する医療機関がないとか、詳しい医師がいないということで、苦しんでおられます。
2010年6月に、そういう方に役に立ちそうな本が、出版されました。
「線維筋痛症がわかる本」
(主婦の友社・1500円+税)

著者の戸田医師は、アメリカ国立衛生研究所(日本の厚労省に該当する官庁の所属機関で、世界的に有名。NHKのクローズアップ現代でも、アメリカの代表的な研究所として登場することがあります。)に勤務する傍ら、線維筋痛症に関する研究報告を読んだり、患者さんと接触するなどして、独自に線維筋痛症の研究をされたそうです。

(現在、戸田医師は広島県の廿日市記念病院リハビリテーション科に勤務されています。)
線維筋痛症は、日本医学界に来航した黒船である

この本には、医学界や患者にとって、重要な指摘があります。

(以下は引用)
「線維筋痛症の有病率は人口の2%ですが、線維筋痛症の不全型あるいは前段階の状態まで含めると人口の20%に達します。これだけの人に線維筋痛症特有の治療が有効なのです。」

「線維筋痛症を病気として認めると、敗戦後に、抗生物質が日本に入ってきた時と同様の革命的変化が慢性痛の領域に起こります。」

「日本の医学界が、いまや世界の常識となっている線維筋痛症の概念を取り入れることで、肩こり、腰痛症、慢性痛の治療が革命的に変化します。」
このようなことから、「線維筋痛症は、日本医学界に来航した黒船である」ということです。

著者は、「この疾患概念が日本に取り入れられれば、これへの医療は、今話題になっている再生医療にも匹敵するくらいの大きな貢献が可能」と指摘しています。
患者としては、この本が出版されたことがきっかけになり、一人でも多くの医師の方が、治療に取り組んでくださることを願っています。
脳の異常によって多くの腰痛や肩こりが起こる

この本には、慢性腰痛のかなりの割合が、線維筋痛症に移行すると記されています。男性腰痛患者の5.5%、女性患者の34%が、平均18年後にFMになったという報告があるそうです。

そういった腰痛や肩こりも、多くは脳の異常によって起こります。
つまり、HPで紹介している
「Central Sensitization:中枢神経の過敏化」(当HPでは「中枢(性)感作」と訳しています)によって、ごくありふれた腰痛や肩こりが起こることがある、その非常に悪化した形がFMということです。
(詳しくは、HPの「線維筋痛症は肩こりや腰痛と地続きの疾患」を参照ください。)


腰痛や肩こりだけでなく、口腔顔面痛や外陰部痛なども線維筋痛症に移行することがあります。
つまり線維筋痛症は、とても広いすそ野を持つ疾患ということになると思います。
薬剤治療について

この本では、線維筋痛症について詳しくない医師の方もすぐに治療に取り組めるように、薬剤治療について、詳細な紹介がされています。
管理人である私自身も線維筋痛症に関してはかなりの資料を読みましたが、薬物治療については、この本で初めて知った情報が多いです。
現在、薬剤治療をされている方や、これから薬による治療を考えている方は、ぜひ一読されることをお勧めします。


また、この本では、薬剤治療以外の治療に関しても、網羅的に紹介されています。FM患者なら、一冊持っていて損はない本だと思います。
もし近くに線維筋痛症に詳しい医師がおられなくても、信頼関係を築いている医師の方がおられ、その医師が治療に協力的であれば、役立つこともあると思います。
ハンディで小さく、ソフトカバーのため、私のような上肢が弱い患者でも、近距離なら持ち運べます。
薬剤中心の治療でどのくらいの快復が望めるか

3ヶ月以上、この治療を行った場合の治療成績は、以下の通りということです。

・「治療の結果、痛みが顕著に軽減、あるいは消失し、治療を終了しても痛みが再発していない」患者さんが14.7%
(治癒とみなす)

(管理人注1:上記の患者さん群には、著者が、薬物投与を中止しても痛みが再発していないことを電話などで確認しているそうです。
注2:上記の部分は、本書と若干文章が異なっていますが、異なる部分については、著者の確認をいただいています。


・そこまでは快復していないが、「痛みが治療開始前の3割以下になった」患者さんが11.8%
(著効とみなす)

・「痛みは治療開始前の9割から3割残っている」患者さんが50%
(有効とみなす)

・「変わらなかった・悪化した」患者さんが23.5%
(不変・悪化)

(本書では、さらに詳しい解説がされていますので、じかにご確認ください。
*FMの不全型といえる慢性広範痛症の患者さんは、上記より成績はいいということです。
線維筋痛症患者への治療でも、薬物を中止しても痛みが再発していない患者さんが14.7%おられるというのは、患者から見て、かなり大きな希望だと思います。


私は一時、非常に悪かったため、非常に悪化した患者さんの回復度合いが気になりますが、「線維筋痛症がわかる本」には、重症の患者さんに特化したデータは載っていません。

でも、FMは、なるべく軽症のときに治療を始めるべきです。軽症であればあるほど、治療の効果が出る可能性は高いと思います。そういう意味では、こういった本が出版されたり、このような治療を受けるチャンスが増えるのは、大事なことだと思います。

私自身の経験では、発症して間もないころ、痛みは激しかったですが、痛む個所は腰部など一部に限られていました。副作用も、最悪期に比べれば軽いものでした。
発症して時期が経ち、症状が悪化すると、「中枢神経の過敏化」により、薬剤の副作用も激しくなるような感じがあります。


痛みが線維筋痛症に移行するより前に、肩こりや腰痛、口腔顔面痛などの段階で、もし悪化を食い止めることができるなら、それはそれで、とても重要なことだと思います

症状が重度になり、四六時中、想像を絶する痛みに苛まれるようになり、たとえば私のように悲惨な状態に陥る前に、もしこういった治療が奏功すれば、重症の患者さんの減少にもつながるかもしれません。
翼突筋除痛療法について

一方で、FM患者さんの多くが、薬剤へのアレルギーや過敏性を示します。「線維筋痛症がわかる本」には、「そういう患者への治療は困難である」とも書かれています。
でも、そういう患者さんも、助かりたいわけです。よくなりたいと思っています。


管理人である私自身も、上記のように、発症してしばらくしてから薬に対してとても過敏になりました。その当時は、副作用が少ないとされるノイロトロピンでさえ、服用後に猛烈な胃痛が出て、薬剤による治療は困難でした。

私が快復した翼突筋除痛療法では、私のような薬に過敏な患者は、薬は全く使わず、歯科的アプローチで治療していきます。
翼突筋除痛療法で、患者の8割が快復し、完治は、およそ50%くらいということで、これはやはり、優れた治療法だと思います。


「線維筋痛症がわかる本」には、「世界標準より優れた治療があれば、それは医学論文になっているはずなので、それを確認したほうがいい」とあります。
これに関しては、HPで、この治療を行っている医師が学会で発表した内容や、リウマチ学会誌に載った医学論文について、その内容・抄録を紹介しているので、興味のある方は、そちらをご覧ください。


ただ、HPでも書いているように、この治療には非常に手間暇がかかり、費用も安くありません。患者からみると、これはやはり大きなテーマだと思います。
今後、この分野の治療研究がさらにすすみ、こういった問題が解決されて、さらに多くの患者に適用できる、汎用性のある治療になればと願っています。
「Central Sensitivity Syndromes」
(中枢性過敏症候群)について


この本には、「Central Sensitivity Syndromes」という概念が紹介されています。
Centralとは中枢神経を指し、具体的な部位は、脊髄と脳です。


「Central Sensitization」(当HPの訳では「中枢(性)感作」)が、線維筋痛症の発症や維持に重要な役割を果たしていることが定説になっているということも紹介されています。
「中枢感作」の頁をご参照ください)

なぜ、患者の体内で「Central Sensitization」(当HPの訳では中枢(性)感作}が起こるのかは不明ですが、世界標準の研究では、線維筋痛症患者に、実際にこれが起こっていることが定説になっており、そのことから、これまで謎だった、さまざまなことが分かってきたということだと思います。

「線維筋痛症がわかる本」では、「Central Sensitivity Syndromes」(中枢性過敏症候群)について、線維筋痛症、過敏性腸症候群、頭痛、慢性疲労症候群などの疾患が含まれ、「それらは互いに重なり合っている」と紹介されています。
Fibromyalgia & Other Ceintral Pain Sundromes」(線維筋痛症と中枢性の疼痛症候群)でも、上記の図のように、これに含まれる疾患が網羅的に紹介されています。

この本を読むと、海外ではすでに、FMとそれに関連する疾患のなかに、この「Central Sensitization中枢感作)」が存在することを裏付ける臨床的データが数多く積み上げられており、それらの疾患同士の関連性(上記のように、これらが重なって発症する)についても、多くのデータが発表されていることが分かります。

それらをふまえた上で、「Central Sensitivity Syndromes(中枢性過敏症候群)」という概念が提唱されており、これらの研究結果を見ると、今後、医学界がこの定説を覆すのは困難であり、その逆に、今後はますます、この存在を裏付ける臨床的データが増えていくのではないかと予想されます。

しかしながら、 日本はまだ、正式にはこの病態生理学的概念を取り入れていません。
「線維筋痛症がわかる本」の著者は、日本医学界は世界から見て、「ガラパゴス化」していると書いています。


Fibromyalgia & Other Ceintral Pain Sundromes」(線維筋痛症と中枢性の疼痛症候群)の執筆陣は、アメリカ、南米、ヨーロッパ、アジアと各地域に渡っています。
第4章を執筆し、この「Central Sensitivity Syndromes」という概念を提唱したユヌス教授は、バングラディシュの出身で、私たちと同じアジア人です。やはり日本も、海外と同じ軌道をたどって、疾患や治療の研究をしてほしいと思います。


この本で、著者は最後に、「日本に、世界標準の線維筋痛症や慢性広範頭痛が取り入れられることを願う」と書いていますが、患者である私自身も、同じ思いです。

「線維筋痛症は改善できる」
2011年3月出版:保健同人社  著者:今野孝彦
(保健同人社・1600円+税)

著者は、札幌市で線維筋痛症外来を開設し、平成16年からは、北海道大学医学部・環境医学講座で「広範囲疼痛の臨床的アプローチ」と題する講義を行っています。

この本も、「中枢過敏症候群」(central sensitivity syndromes:略して「CSS」)の概念から、線維筋痛症患者にあらわれる多彩な症状を説明しています。以下は引用です。

(本書50Pより)
「(患者に現れる多彩な症状が、)共通のしくみの上に成り立っていることを知っているかどうかで、医師の患者さんに対する態度は180度代わります。
(中略)
もし、医師にこうした知識があれば、自分の専門分野の病気とは関連がないと思われる疼痛などの症状を患者さんが訴えたとき、むげに「この病気でそんな症状が起こることなど聞いたことがない。精神科に伝も行きなさい」とは言わないでしょう。
消化器疾患を例に挙げると、過敏性腸症候群で20%、クローン病、潰瘍性大腸炎などの得印象性腸疾患の3%に線維筋痛症が合併します。」



(:管理人注)
上記のように、医師の多くが線維筋痛症という疾患を知り、なおかつ
「中枢性過敏症候群(CSS)」をよく理解していれば、今、難民のようにあちこちの病院をさまよい、それでも痛みなどの原因が分からず、不安に苛まれている患者さんは、精神的に楽になるでしょう。

一方で、多くの患者さんはこのメカニズムを知ることで、自分の多様な症状の背景を理解でき、得体の知れない不安を取り除けると思います。
ぜひ、医療の現場や医学界全体に、この
中枢性過敏症候群の概念が広まって欲しいと思います。
*47ページには
中枢感作の図が示されています。


また、この本では、「線維筋痛症は改善できる」というタイトル通りに、治療とともに症状が改善した患者さんの例が多く掲載されています。


薬剤治療について

よく知られている薬剤のほかに、癌などで使われる「ドラマドール」が紹介されています。著者はこの効果について、線維筋痛症学会で発表しています。

第1回線維筋痛症学会
「トラマドールシロップの線維筋痛症に対する治療経験」


薬剤以外の治療

「治療は薬剤のみに頼らず、ウォーキングや呼吸法、ヨガ、ストレッチングなどを合わせて行う」ことが推奨されています。

適切な治療によって、3−5年以内に70%以上が、症状が改善する可能性があるということです。

薬剤に過敏になる患者さんについて
「(患者の)6割が薬や食べ物に敏感で、特に薬では、いろいろな薬に対して過敏なことが多く、効果が期待できる治療法であっても、行えないことがある」と紹介されています。

そういう場合、「ほかの代替療法を患者さんと一緒に探すことも主治医の重要な役目」ということです。

3.歯科治療でなぜ線維筋痛症が改善するのか。
  参考図書の紹介


「歯科からの医療革命(体の症状を歯から治す)」

「歯科からの逆襲(現代医学が苦手とする難病、奇病、慢性病への挑戦が始まった)」 (ともに藤井佳朗著)


*以下は予備知識です。

歯と脳の関係

2011年2月9日放送の「ためしてガッテン」では、「噛むことと脳の関係」についての特集がありました。

(「ためしてガッテン」HP)
http://cgi4.nhk.or.jp/gatten/archive/program.cgi?p_id=P20110209

これは、線維筋痛症と歯科治療の関係を考える上で、とても参考になる内容でした。

番組の冒頭で、「老衰などで寝たきりだった高齢者が、入れ歯を入れて口からものを食べるようになったら、立ち上がって歩けるようになり、数ヵ月後、歩くだけでなく庭仕事まで出来るようになった」など、何人かの高齢者の映像がありました。今、全国で、そういう報告が相次いでいるそうです。

奇跡のような、信じられないような話ですが、私自身が、同じように、手足をもがれた芋虫のような廃人状態から徐々に回復していきましたから、寝たきりから起き上がり、歩き出した高齢者の姿を見て、本当に、自分自身の姿を見ているようでした。

番組で司会者が強調していたのは、以下のことでした。


「歯が、ただものを噛み砕く道具だと思うと、大間違い」
「噛む行為には、物を噛み砕く以上の、重要な働きがある」
「噛むことは、生きるのに必要な力」

歯と脳との関係では、これまで知られていなかったこととして、歯の根元に存在する「歯根膜」が、じつは非常に優秀で精密なセンサーであり、かむことで生じる歯のゆがみを信号に置き換えて、三叉神経を通じて脳に送っているということが紹介されました。

この精密なセンサーは、もっとも太い脳神経である三叉神経を通じて、脳の中の感覚野、運動野、記憶中枢である海馬、思考中枢である前頭前野、また、意欲をつかさどる線条体にまで、直接つながっているということです。(下記イラスト参照)
(参考)

翼突筋除痛療法を手掛けている山田歯科医師は、歯科治療でFMが回復する神経生理学的機序について論文を書いています。下記がそれに関する部分です。

「口腔の固有感覚受容器は、その細胞体を三叉神経中脳路核に持ち、直接、上位中枢とシナプスを作っている。FMの疼痛を改善するメカニズムには、三叉神経の特異な構造が関与していると推測される。」

(医学用語が多くわかりにくいですが、私のHPの下記のページに、図を載せています。

「線維筋痛症の概念」

この歯の根元にある歯根膜というセンサーが、どのくらい精密にできているかというと、人は、触覚では分からない、1000分の5ミリの厚さの違いの紙を、歯で噛むことで、どちらが厚いのかを判定できると、実験を通じて紹介されていました。

線維筋痛症は、脳中枢が過敏になる症候群ですから、歯科による咬合治療で、非常に悪化していた私のような患者が劇的に回復するメカニズムは、この「歯と脳と関係」をみると、分かりやすいと思います。
噛み合わせは全身にも影響する

番組では、噛みあわせ、つまり、下あごの位置がが左右どちらかに動くと、それが全身のバランスにどれだけ大きな影響があるか、プールに人を浮かべて実験をしていました。
噛みあわせが大きく動く、つまり下あごの位置が大きく左右に動いたり、片側の歯を何本も失うと、体のバランスが崩れ、人体に相当の無理がかかることが良く分かります。
ですが、人体には、さまざまな無理がかかると、それに対してバランスを取って、体の諸機能を維持しようとする力があります。

おそらく、この能力を超えた無理がかかると、防波堤が決壊するように、体の防御機能が決壊して、病気が発現するのではないかと感じます。この能力には、当然、個人差がありますから、同じ量の無理がかかっても、病気を発症する人としない人がいるのではないかと思います。


ミクロン単位の噛み合わせの不調が症状に影響

翼突筋除痛療法をてがける山田歯科医師もそうですが、「噛みあわせと全身の関係、脳との関係」をよく知っている歯科医師は、例外なく、咬合(かみ合わせ)のミクロン単位の不調が、さまざまな症状に大きく影響するといいます。
これは、上記の歯根膜という高性能のセンサーが、微細な歯のゆがみを正確に感知することと連動しているのではないかと思います。
私の場合も、わずかな歯のぐらつき、歯茎の腫れなどがあると、昔なつかしいFMの諸症状が、そろって現れます。(めまい、背中、首、肩、腕、腰の痛み、過敏性腸症候群、重量感と疲労感、膀胱炎等)


線維筋痛症は、脳中枢が過敏性になる症候群ですから、この現象は、歯の根元の高性能のセンサーが、三叉神経を通じて脳に直接信号を送り、それが過敏になった脳で非常に大きく拡大され、FMの症状として現れると考えると、分かりやすい気がします。

番組で紹介されていた「寝たきりだった高齢者が、入れ歯を入れるなどの歯科治療によって、一人で立ち上がり、歩けるようになった」という驚くべき現象については、下記に紹介する「歯科からの医療革命」や「歯科からの逆襲」(藤井佳朗著)に、詳しい記事があります。
「歯科からの医療革命」
(体の症状を歯から治す)
藤井佳朗著:2004年*現代書林出版



「歯科からの逆襲」
(現代医学が苦手とする難病、奇病、慢性病への挑戦が始まった)
寝たきり老人が歩きだす歯科治療って何だ!!
藤井佳朗著:1997年*現代書林出版

この本に書かれている多くの症状は、線維筋痛症の症状そのままです。具体的には下記のような感じです。(本からの引用)

「私の歯科医院には、虫歯や歯周病で来院する患者さんはほとんどおらず(略)治療対象の大半は、不定愁訴と呼ばれている慢性の腰痛、頭痛、肩コリ、膝関節症といった疾患です。そのほか、顎関節症、アトピー性皮膚炎、リウマチ、膠原病・・・自律神経失調症などの患者さんも、全国からやってきます」

この現象について、藤井歯科医師は下記のように指摘しています。

「一見、歯に原因がないようで、実は歯が原因という病気がたくさんある」

「膝関節に痛みがあり、整形外科や整体などで、いくら治療してもよくならなかった患者さんが、歯の治療で痛みが消える例がある」

「アトピーやリウマチや自律神経失調症などで、長年に渡って治療を受けているにもかかわらず、改善できない患者さんで、歯が原因で発症している場合がかなりある」

「例えば、腰痛、頭痛、肩コリなどの原因が、歯にあるとすれば、歯科治療は原因療法ですから、完治する可能性が高い」「歯が原因で発症する全身性疾患は、医科(普通医)においては難治になるのは当然」

これらの主張は、歯科医師による咬合治療で、線維筋痛症から劇的に回復した私には、よく理解できます。
これらの疾患の患者さんに対して、藤井歯科医師は、「主に歯のかみ合わせを調整することで治療をしている」ということです。


(以下は、著書よりの引用)

「私の治療方針は、歯のかみ合わせ(咬合)は全身に影響するものであり、歯と全身を切り離して診てはいけないという理念を貫くことにあります」

歯の重要な役目は、「ものを噛むこと」と思われてきましたが、歯の最も重要な機能は、「全身を支えることにあります」。

ですから、歯と全身との関係を無視して「歯だけを治療し、食べ物が噛めるようになっても、今度は、体のどこかに不調が出てくる場合がある」とも指摘しています。


また、藤井医師は著書の中で、歯科的治療法の紹介とともに、今の医療制度のもつ問題点について、問題提起もしています。以下にその一部を引用します。
今の医学教育の問題点

今の医学教育は、「歯科治療の影響は口腔内のみに限定され、全身には及ばない」という前提のもとに、医科と歯科は、学生が大学に入学するときから完全に分離しています。

「歯学部と医学部を分離するということは、歯や顎と、全身を切り離すということ」で、「口腔領域だけを歯科として、医科と分離した日本の教育制度に根本の問題がある」ということです。

現在、「歯科と医科には学術交流がなく、学会同志の交流もなく、臨床データの交換もない」ということで、このように医科と歯科が完全に分離していれば、「歯が原因で発症する全身性疾患は、医科(普通医)においては難治になるのは当然」との指摘は、患者としてもよくわかります。


噛み合わせの狂いが全身に及ぼす影響

藤井医師は下記のようにも指摘しています。

「口(顎)と腰は腰椎でつながっているため、下顎骨の位置が正常でなければ、背骨や骨盤にゆがみが生じてくるし、背骨や骨盤にゆがみが生じれば、噛み合わせはずれて、全身に影響があらわれます」

「咬合(噛み合わせ)は、頭蓋骨から仙骨に至る骨格に、密接に関係している。骨には可動性があり、(動かないと思われている)頭蓋骨にも可動性がある。

従って、かみ合わせによって、頭蓋骨も可動する。可動する頭蓋骨は、脳脊髄液の働きにも関係する。つまり、かみ合わせが、脳の正常な働きにもかかわっている可能性が否定できない」

「ためしてガッテン」が人をプールに浮かべて、噛み合わせがいかに全身に影響するかについて、実験していましたが、噛み合わせが狂えばどのくらい人体に影響するか、上記には、それを日常的に見ている臨床医としての実感を感じます。
藤井医師によれば、背骨や骨格のゆがみが咬合のゆがみにつながり、そういう部分を矯正すると、逆に、咬合治療をしなくても痛みが楽になる例もあるということです。
また、その逆に、悪い咬合が原因で背骨などの骨格が歪み、痛みが発生していれば、「たとえ整体治療などで一時的に痛みが消えても、その原因になっている咬合を治療しなければ、痛みは再発してしまう」ということです。


私は、徒手による治療で線維筋痛症が回復したという話を何度も聞いており、また、徒手による治療では、再発することがままあるということも聞いていて、上記の指摘には、それとの符合を感じます。

現在、歯科と医科は、教育の段階から完全に分離しており、両者の学術交流もないため、「歯は、ただものを噛み砕く道具に過ぎない」という考え方が一般的で、本当にそうなのかどうかよく吟味されないまま、歯だけを全身から切り離した治療が行われているために、藤井医師によれば、「誤った歯の治療によって病気になる例が山のようにある」ということです。
たとえば、「義歯を入れたことによって歩行が困難になった」「歯列矯正治療を受け、見た目は綺麗な歯並びになったが、貧血や腰痛の症状が出た」などの例を紹介しています。
また、歯と脳の関係を考える上で、下記の本も参考になります。

「歯は命とつながる臓器・それは脳のセンサーである」
(歯は臓器であり、脳中枢神経系のセンサーである)

著者:村津和正
(九州大学歯学部卒業、同大学院博士課程修了、テキサス大学生命科学研究所に留学)
2007年出版:発行:三五館
*これまでは、歯は単に食物を噛み砕くだけの道具にすぎない(歯末梢説)と信じられてきましたが、著者は「歯は、脳中枢神経系のセンサー(歯中枢説)である」と結論付けています。

著者がこのような知見を持つに至ったさまざまな症例のなかで、もっとも衝撃的なのは、歯列矯正中に失明し、記憶喪失、排尿や排便の困難がおこり、次いで重度の多発性硬化症を発症し、寝たきりになり、一時は絶望的だった高校生の例です。

この高校生は、歯列矯正中に、上記のように非常に深刻な状況に陥りましたが、歯のかみ合わせの改善によって、だんだんと回復し、最終的には視力が回復、さまざまな症状も劇的によくなり、回復後に通信制の高校に入学し、勉学を再開しました。

著者は、「この事実を真摯に直視し、歯と命の中枢におけるつながりを認めることが重要」「同時に、(この患者の場合、)発症前から歯列矯正という「歯のかみ合わせ」が大幅に変化する治療行為がなされ、そしてその後発症した全身的な異常、難病とも呼ばれるほどの生命機能の狂いが、「歯のかみ合わせ」を改善することによって回復していったという事実は、医療関係者として謙虚に重く受け止めなければならないのではないか」とも言っています。
この症例には驚きますが、でも私自身が、歯科医師による咬合治療によって、重度の線維筋痛症から劇的に回復しました。私自身、自分の回復には、非常に驚きましたから、上記のような例はありうると思います。

歯科矯正については、「歯科からの医療革命」でも、全身姿勢を考慮しない「矯正治療やスプリントで咬合を急激に改変させれば、全身がガタガタになる可能性がある」と言っています。

確かに、線維筋痛症患者さんは、過去に歯科矯正をした人が多いと感じますし、若くして発症した人には、子供時代に歯列矯正をしたという人がかなりおられる感じがします。

ですが、矯正治療をした患者さんの全員が線維筋痛症になるわけではありませんし、サッカー日本代表の森本選手のように、歯科矯正をしながら、体に痛みが出るどころか、元気にピッチを走り回っている人もいます。
同じように噛み合わせがよくない患者さんでも、線維筋痛症になる人と、ならない人がいます。それはおそらく、以下のようなことかと思います。



線維筋痛症は、脳中枢が過敏になる症候群

人体には、脳内物質である快楽物質エンドルフィンなど、もともと脳の過敏化を防ぐ機能や、体を正常に保つ機能が備わっています。でも、噛み合わせの不調を含め、あまりに大きい刺激が重なったり、体に備わっている防御機能がさまざまなストレスなどで弱くなったり、あるいは、その機能がもともと弱かった人が弱い刺激にさらされ続けると、人体に入ってくる刺激の入力に負けてしまう、つまり、その人の持つ「防波堤」を破られてしまう。そうすると、さまざまな疾患や、線維筋痛症を発症する、そういうふうに考えると、分りやすいように思います。

参考

藤井歯科医師が提唱する治療で、難治性疾患から治った患者さんが作ったHP

http://homepage1.nifty.com/kkmiya/UHL-ha/OMindex-01.html
(全身の噛み合わせ医療)

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