2.日本で出版された患者さん向けの本
「線維筋痛症がわかる本」
2010年6月出版:主婦の友社 著者:戸田克広
「線維筋痛症は改善できる」
2011年3月出版:保健同人社 著者:今野孝彦
患者さんの多くは、近くに線維筋痛症患者を治療する医療機関がないとか、詳しい医師がいないということで、苦しんでおられます。
2010年6月に、そういう方に役に立ちそうな本が、出版されました。 |
「線維筋痛症がわかる本」
(主婦の友社・1500円+税)
著者の戸田医師は、アメリカ国立衛生研究所(日本の厚労省に該当する官庁の所属機関で、世界的に有名。NHKのクローズアップ現代でも、アメリカの代表的な研究所として登場することがあります。)に勤務する傍ら、線維筋痛症に関する研究報告を読んだり、患者さんと接触するなどして、独自に線維筋痛症の研究をされたそうです。
(現在、戸田医師は広島県の廿日市記念病院リハビリテーション科に勤務されています。)
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線維筋痛症は、日本医学界に来航した黒船である
この本には、医学界や患者にとって、重要な指摘があります。
(以下は引用)
「線維筋痛症の有病率は人口の2%ですが、線維筋痛症の不全型あるいは前段階の状態まで含めると人口の20%に達します。これだけの人に線維筋痛症特有の治療が有効なのです。」
「線維筋痛症を病気として認めると、敗戦後に、抗生物質が日本に入ってきた時と同様の革命的変化が慢性痛の領域に起こります。」
「日本の医学界が、いまや世界の常識となっている線維筋痛症の概念を取り入れることで、肩こり、腰痛症、慢性痛の治療が革命的に変化します。」
このようなことから、「線維筋痛症は、日本医学界に来航した黒船である」ということです。
著者は、「この疾患概念が日本に取り入れられれば、これへの医療は、今話題になっている再生医療にも匹敵するくらいの大きな貢献が可能」と指摘しています。
患者としては、この本が出版されたことがきっかけになり、一人でも多くの医師の方が、治療に取り組んでくださることを願っています。
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脳の異常によって多くの腰痛や肩こりが起こる
この本には、慢性腰痛のかなりの割合が、線維筋痛症に移行すると記されています。男性腰痛患者の5.5%、女性患者の34%が、平均18年後にFMになったという報告があるそうです。
そういった腰痛や肩こりも、多くは脳の異常によって起こります。
つまり、HPで紹介している「Central Sensitization:中枢神経の過敏化」(当HPでは「中枢(性)感作」と訳しています)によって、ごくありふれた腰痛や肩こりが起こることがある、その非常に悪化した形がFMということです。
(詳しくは、HPの「線維筋痛症は肩こりや腰痛と地続きの疾患」を参照ください。)
腰痛や肩こりだけでなく、口腔顔面痛や外陰部痛なども線維筋痛症に移行することがあります。
つまり線維筋痛症は、とても広いすそ野を持つ疾患ということになると思います。 |
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薬剤治療について
この本では、線維筋痛症について詳しくない医師の方もすぐに治療に取り組めるように、薬剤治療について、詳細な紹介がされています。
管理人である私自身も線維筋痛症に関してはかなりの資料を読みましたが、薬物治療については、この本で初めて知った情報が多いです。
現在、薬剤治療をされている方や、これから薬による治療を考えている方は、ぜひ一読されることをお勧めします。
また、この本では、薬剤治療以外の治療に関しても、網羅的に紹介されています。FM患者なら、一冊持っていて損はない本だと思います。
もし近くに線維筋痛症に詳しい医師がおられなくても、信頼関係を築いている医師の方がおられ、その医師が治療に協力的であれば、役立つこともあると思います。
ハンディで小さく、ソフトカバーのため、私のような上肢が弱い患者でも、近距離なら持ち運べます。 |
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薬剤中心の治療でどのくらいの快復が望めるか
3ヶ月以上、この治療を行った場合の治療成績は、以下の通りということです。
・「治療の結果、痛みが顕著に軽減、あるいは消失し、治療を終了しても痛みが再発していない」患者さんが14.7%
(治癒とみなす)
(管理人注1:上記の患者さん群には、著者が、薬物投与を中止しても痛みが再発していないことを電話などで確認しているそうです。
注2:上記の部分は、本書と若干文章が異なっていますが、異なる部分については、著者の確認をいただいています。
・そこまでは快復していないが、「痛みが治療開始前の3割以下になった」患者さんが11.8%
(著効とみなす)
・「痛みは治療開始前の9割から3割残っている」患者さんが50%
(有効とみなす)
・「変わらなかった・悪化した」患者さんが23.5%
(不変・悪化)
(本書では、さらに詳しい解説がされていますので、じかにご確認ください。 |
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*FMの不全型といえる慢性広範痛症の患者さんは、上記より成績はいいということです。
線維筋痛症患者への治療でも、薬物を中止しても痛みが再発していない患者さんが14.7%おられるというのは、患者から見て、かなり大きな希望だと思います。
私は一時、非常に悪かったため、非常に悪化した患者さんの回復度合いが気になりますが、「線維筋痛症がわかる本」には、重症の患者さんに特化したデータは載っていません。
でも、FMは、なるべく軽症のときに治療を始めるべきです。軽症であればあるほど、治療の効果が出る可能性は高いと思います。そういう意味では、こういった本が出版されたり、このような治療を受けるチャンスが増えるのは、大事なことだと思います。
私自身の経験では、発症して間もないころ、痛みは激しかったですが、痛む個所は腰部など一部に限られていました。副作用も、最悪期に比べれば軽いものでした。
発症して時期が経ち、症状が悪化すると、「中枢神経の過敏化」により、薬剤の副作用も激しくなるような感じがあります。
痛みが線維筋痛症に移行するより前に、肩こりや腰痛、口腔顔面痛などの段階で、もし悪化を食い止めることができるなら、それはそれで、とても重要なことだと思います
症状が重度になり、四六時中、想像を絶する痛みに苛まれるようになり、たとえば私のように悲惨な状態に陥る前に、もしこういった治療が奏功すれば、重症の患者さんの減少にもつながるかもしれません。 |
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翼突筋除痛療法について
一方で、FM患者さんの多くが、薬剤へのアレルギーや過敏性を示します。「線維筋痛症がわかる本」には、「そういう患者への治療は困難である」とも書かれています。
でも、そういう患者さんも、助かりたいわけです。よくなりたいと思っています。
管理人である私自身も、上記のように、発症してしばらくしてから薬に対してとても過敏になりました。その当時は、副作用が少ないとされるノイロトロピンでさえ、服用後に猛烈な胃痛が出て、薬剤による治療は困難でした。
私が快復した翼突筋除痛療法では、私のような薬に過敏な患者は、薬は全く使わず、歯科的アプローチで治療していきます。
翼突筋除痛療法で、患者の8割が快復し、完治は、およそ50%くらいということで、これはやはり、優れた治療法だと思います。
「線維筋痛症がわかる本」には、「世界標準より優れた治療があれば、それは医学論文になっているはずなので、それを確認したほうがいい」とあります。
これに関しては、HPで、この治療を行っている医師が学会で発表した内容や、リウマチ学会誌に載った医学論文について、その内容・抄録を紹介しているので、興味のある方は、そちらをご覧ください。
ただ、HPでも書いているように、この治療には非常に手間暇がかかり、費用も安くありません。患者からみると、これはやはり大きなテーマだと思います。
今後、この分野の治療研究がさらにすすみ、こういった問題が解決されて、さらに多くの患者に適用できる、汎用性のある治療になればと願っています。 |
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「Central Sensitivity Syndromes」
(中枢性過敏症候群)について
この本には、「Central Sensitivity Syndromes」という概念が紹介されています。
Centralとは中枢神経を指し、具体的な部位は、脊髄と脳です。
「Central Sensitization」(当HPの訳では「中枢(性)感作」)が、線維筋痛症の発症や維持に重要な役割を果たしていることが定説になっているということも紹介されています。
(「中枢感作」の頁をご参照ください)
なぜ、患者の体内で「Central Sensitization」(当HPの訳では中枢(性)感作}が起こるのかは不明ですが、世界標準の研究では、線維筋痛症患者に、実際にこれが起こっていることが定説になっており、そのことから、これまで謎だった、さまざまなことが分かってきたということだと思います。
「線維筋痛症がわかる本」では、「Central Sensitivity Syndromes」(中枢性過敏症候群)について、線維筋痛症、過敏性腸症候群、頭痛、慢性疲労症候群などの疾患が含まれ、「それらは互いに重なり合っている」と紹介されています。 |
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「Fibromyalgia & Other Ceintral Pain Sundromes」(線維筋痛症と中枢性の疼痛症候群)でも、上記の図のように、これに含まれる疾患が網羅的に紹介されています。
この本を読むと、海外ではすでに、FMとそれに関連する疾患のなかに、この「Central Sensitization(中枢感作)」が存在することを裏付ける臨床的データが数多く積み上げられており、それらの疾患同士の関連性(上記のように、これらが重なって発症する)についても、多くのデータが発表されていることが分かります。
それらをふまえた上で、「Central Sensitivity Syndromes(中枢性過敏症候群)」という概念が提唱されており、これらの研究結果を見ると、今後、医学界がこの定説を覆すのは困難であり、その逆に、今後はますます、この存在を裏付ける臨床的データが増えていくのではないかと予想されます。
しかしながら、 日本はまだ、正式にはこの病態生理学的概念を取り入れていません。
「線維筋痛症がわかる本」の著者は、日本医学界は世界から見て、「ガラパゴス化」していると書いています。
「Fibromyalgia & Other Ceintral Pain Sundromes」(線維筋痛症と中枢性の疼痛症候群)の執筆陣は、アメリカ、南米、ヨーロッパ、アジアと各地域に渡っています。
第4章を執筆し、この「Central Sensitivity Syndromes」という概念を提唱したユヌス教授は、バングラディシュの出身で、私たちと同じアジア人です。やはり日本も、海外と同じ軌道をたどって、疾患や治療の研究をしてほしいと思います。
この本で、著者は最後に、「日本に、世界標準の線維筋痛症や慢性広範頭痛が取り入れられることを願う」と書いていますが、患者である私自身も、同じ思いです。 |
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「線維筋痛症は改善できる」
2011年3月出版:保健同人社 著者:今野孝彦
(保健同人社・1600円+税)
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著者は、札幌市で線維筋痛症外来を開設し、平成16年からは、北海道大学医学部・環境医学講座で「広範囲疼痛の臨床的アプローチ」と題する講義を行っています。
この本も、「中枢過敏症候群」(central sensitivity syndromes:略して「CSS」)の概念から、線維筋痛症患者にあらわれる多彩な症状を説明しています。以下は引用です。
(本書50Pより)
「(患者に現れる多彩な症状が、)共通のしくみの上に成り立っていることを知っているかどうかで、医師の患者さんに対する態度は180度代わります。
(中略)
もし、医師にこうした知識があれば、自分の専門分野の病気とは関連がないと思われる疼痛などの症状を患者さんが訴えたとき、むげに「この病気でそんな症状が起こることなど聞いたことがない。精神科に伝も行きなさい」とは言わないでしょう。
消化器疾患を例に挙げると、過敏性腸症候群で20%、クローン病、潰瘍性大腸炎などの得印象性腸疾患の3%に線維筋痛症が合併します。」
(:管理人注)
上記のように、医師の多くが線維筋痛症という疾患を知り、なおかつ「中枢性過敏症候群(CSS)」をよく理解していれば、今、難民のようにあちこちの病院をさまよい、それでも痛みなどの原因が分からず、不安に苛まれている患者さんは、精神的に楽になるでしょう。
一方で、多くの患者さんはこのメカニズムを知ることで、自分の多様な症状の背景を理解でき、得体の知れない不安を取り除けると思います。
ぜひ、医療の現場や医学界全体に、この中枢性過敏症候群の概念が広まって欲しいと思います。
*47ページには中枢感作の図が示されています。
また、この本では、「線維筋痛症は改善できる」というタイトル通りに、治療とともに症状が改善した患者さんの例が多く掲載されています。
薬剤治療について
よく知られている薬剤のほかに、癌などで使われる「ドラマドール」が紹介されています。著者はこの効果について、線維筋痛症学会で発表しています。
第1回線維筋痛症学会
「トラマドールシロップの線維筋痛症に対する治療経験」
薬剤以外の治療
「治療は薬剤のみに頼らず、ウォーキングや呼吸法、ヨガ、ストレッチングなどを合わせて行う」ことが推奨されています。
適切な治療によって、3−5年以内に70%以上が、症状が改善する可能性があるということです。
薬剤に過敏になる患者さんについて
「(患者の)6割が薬や食べ物に敏感で、特に薬では、いろいろな薬に対して過敏なことが多く、効果が期待できる治療法であっても、行えないことがある」と紹介されています。
そういう場合、「ほかの代替療法を患者さんと一緒に探すことも主治医の重要な役目」ということです。 |
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