3.この治療で良くならない場合
以下は、大脳指向型(BOOT)咬合療法で治療した一患者としての、私の実感です。
この治療法では、これまでに多くの患者さんが回復していますが、なかには快癒までいかない患者さんもおられます。
また、管理人である私自身も、回復の過程のなかで、悪化することもありました。
私がどういったときに悪化したか、また、回復がうまくいかない場合などについて、いくつか例を上げたいと思います。
管理人が悪化したとき
大脳指向型(BOOT)咬合療法を始めて1年ちょっとしたころ、私は散歩したり、繁華街で衣服を買ったりすることが、かなりできるようになりました。そして、そのころ、家の近くにある八百屋さんで、まるまるした美味しそうな大根が売られているのを見ました。
軽いシャツくらいなら買って帰れるようになっていた私は、かなり気が大きくなっていて、その大根を買っておでんにしようと思い、大根とバナナ一房、それからカボチャを半分買って帰りました。
八百屋の店先でそれらをまとめて持ってみて、ずしっと来るのを感じて、私は「かなり重い、やばいかもしれない」と思いましたが、買ったものをそこで捨てて行くわけにはいかず、なんとか家まで持ち帰りました。そして、その翌日から、私は呼吸をするだけで脇腹が痛むくらいの激しい痛みに見舞われました。
「後悔先に立たず」という言葉は、こういう場合のためにあるのだと実感しました。
激しい痛みは1ヶ月以上続き、2ヶ月目に入っても元には戻らず、大根を持つ前の状態に戻るまでに、7,80日かかりました。
一本80円の大根にこだわったために、私は治療が1ヶ月以上遅れることになったのでした。
私の場合、シャツとかジーンズなどの柔らかい素材で、身体にくっつけて持ち歩けるものの場合は、あまりダメージはないのですが、重く、固くて、それを持つと腕や肩、背中に負担が来るものは、その日か、翌日に、大きなダメージに見舞われることが、ままありました。
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治療途中で無理することについて、医師は、「無理をしてはいけない。無理をすればよくなるものもよくならない。治るものも治らなくなる」と常に言っていました。
回復する途中の段階では、できるだけ無理をせず、身体が「重い、痛い、苦しい」と感じたら、なるべく早くその行動をストップし、椅子に座って休んだり、横になったりして、受けたダメージを回復させたほうがいいようです。
身体が「重い、痛い、苦しい」と感じることは、身体の感覚受容器への痛み信号入力につながり、[wind up]の現象を引き起こし、脳中枢が痛み感度を増大させ、結局は全身の痛みにつながるようです。(HPの「中枢感作」のページ参照)
治療によって翼突筋が回復するに従って、この[wind up]現象が収まり、その結果として、痛み信号の入力に対して、痛み中枢の暴走が収まってくるようです。
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なかなか回復しない患者さんの場合
大脳指向型(BOOT)咬合療法でもなかなか回復せず、心配をして連絡をしてきた、私と同じ年頃の女性の患者さんがいます。
私も、ぜひよくなって欲しいのですが、なぜ現状維持からよくなっていかないのか、お話を聞いてみて、たぶん、治療でよくなった分の体力、回復した分の余力を、日々の活動に使ってしまっているからではないだろうかという感じを持ちました。
その患者さんは、私と違って化学物質過敏症が少なく、大脳指向型(BOOT)咬合療法と平行して、リリカを飲んでいるということでした。リリカは国内では未承認の薬剤で、個人輸入する必要があって、価格も高価なのですが、その患者さんの感じでは、今まで投与された薬と違ってリリカには痛みを抑える効果があるということでした。そして、BOOT療法によって、以前より身体を動かすことができるようになったので、リリカで痛みを抑えて食事の準備とか庭仕事をやっているということでした。
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でも、大脳指向型(BOOT)咬合療法には、かなりの費用がかかります。その費用をかけても、患者さんは回復のために頑張っているわけで、治療の途中、回復の途中では、食事の支度や庭仕事よりも、治療によって回復した分の体力や、回復した身体の状態を、さらに大きな回復や、今後の治療に回すことのほうが大事ではないかと思います。
でも、重症になった患者さんの多くは、それまでいろいろなことを我慢し、やりたかったことも諦めて、とても辛い時間を過ごしているので、少しでも良くなってくれば、それまで我慢していた、さまざまなことをしたくなるのは当然のことです。
これは、回復してきた患者さんなら誰でも、必ず直面する難題だと思います。もともと線維筋痛症の患者さんは、人よりいろいろなことが出来たり、完璧主義者だったり頑張り屋だったりする人が多いのではないでしょうか。
苦しい闘病から回復してくると、さまざまなことができるようになってくるので、「あれもやりたいこれもやりたい」と、いろいろやって、せっかく回復してきた体力を、貯金しないで使ってしまう場合が出てきます。
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かくいう私も、寝たきりからやっと、一日30分だけ起きあがれるようになったころから、まだろくに歩けもしないのに、1972年に放映されたドラマ「木枯し紋次郎」のブログを作って、原稿用紙で1200枚も書いてしまったり、(それまで何年ものあいだ、一行の文章を書くこともできず、文章を書けるようになったことが嬉しかったのだと思います。)また、このHPを作ったりして、Y医師には、「無理するな、無理すると治るものも治らなくなる。治療で回復した分以上の体力を使えば、この治療で回復させることはできない」と何度も言われました。
私の場合はそれでも何とか、回復した分の体力を貯金に回せたので、ここまでよくなってきたのだと思います。しかし、Y医師は、今もまだ私に同じことを言っています。
「無理をするな。昔と同じような馬力(昔はありました)で何かやったり、昔と同じような無理をしては駄目だ。この生活習慣とか癖を直さないと、また悪くする。また悪くなったら、もううちでは直せない」
治療をしても現状維持で、なかなかよくならないために、心配して連絡してきた患者さんに、私は、「よくなった分は、貯金に回して。今、家事とか庭仕事のために、引き出して使っては駄目。今の回復分は貯金して、将来、利息を受け取ったほうがいい」と言いました。よく考えると、これは、私自身が医師から何度も言われたこととそっくりでした。
回復した分の体力をすべて日常生活で使い、無理することが続けば、治療をしても、回復に向かうことは難しくなってしまうでしょう。私自身は、まだ翼突筋が万全ではないことを実感していて、それが完全に回復する前に、できる範囲を越えた無理するのは、自殺行為であることを感じています。
回復の途中にあるときは、自分が痛いとき、苦しいとき、辛いときには身体の声に耳を傾けて、自分にそれ以上の無理をさせず、苦しいときはよく休み、自分が楽しく、らくにできると思える範囲で、いろいろなことを楽しんでいけば、身体はゆっくりと回復していくのではないかと思います。
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